夫の教えるA~Z
フー、フー…
ひたすら息を整え、鳩尾への一発から回復しようとしていた俺は、その弱い拳を止めることはしなかった。


すぐに力尽き、胸板ポカポカ攻撃を止めた夏姉は、俺の上に乗っかったまま、肩を震わせ、顔を隠して俯いている。


そっと、その肩に触れてみた。
長い髪越しに撫でた背中の意外なか細さに驚く。


ガキの頃。

3つ年上のデッカイ姉ちゃんには、全く勝てる気がしなかった。全力でつっかかっても、まるっきり勝つことが出来なかった。
言い換えれば安心して全力を出すことができたんだ。

今は___
どうだろう。



『アイツとさ…付き合ってたの?』

ピクリと背中が動き、震えた声が返ってきた。

『瀬戸際で…堪えたわよ。
…誰かさんのせいで…ね。
ふふっ…あんたよりボッコボコにしてやった』

何故か、胸がいたい。

『…そりゃあ…』

“悪かった、ゴメン”
心にそれを描きつつ、俺は全く違う言葉を口にした。

『…よかったじゃねえの』
『…よかったわよ…』


『こんどさ、飲みにでも出る?』


『アンタは嫌。
…トーコちゃんがいい…』


あっそ_____
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