夫の教えるA~Z
「…そうよ、あなたがどんな男かなんて、初めから知ってたわ。
"軽薄""野心家""自己愛""冷淡"。全部占いに出てたから」

「ひっ」
ガタン。
思わず椅子ごと身を引いた。
振り向いた彼女の顔が、恐ろしく歪んでいたからだ。
彼女はさらに続けた。

「でも、あの時の私はそんな男と関係を持ってみたかった。会社で一番の男と付き合って、ちょっと綺麗だからってわたしをブスだとバカにしたやつら、ダサい格好を揶揄ったやつら、暇さえあればロッカールームで全く自分に害のない人間の悪口ばかり言ってるやつらの、鼻柱を折ってやりたかった。
…そりゃあ私だって、あなたのコーヒーに媚薬を混ぜたのは少し悪かったと思ったわ。効果は十分、あいつらの鼻も明かせたし…
だから別れにも素直に応じた」

え、何それちょっと待って。
薬って?もしかしてあの時、惚薬的なやつ飲まされてた?
しかも動機、完全に俺とばっちりじゃね?
え?
「ち、ちょっと待…」

「…なのにね。
わたし、去年ここで!
あなたのあの無様なプロポーズを、ひとつ残らず聞いてしまったのよ!!」

「っ…!」
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