夫の教えるA~Z
そういえば…

何を隠そう1年前。
紆余曲折があって、俺は当時の部下でランチの途中だった奥さん(トーコ)屋上(ここ)に拉致し、その場の勢いで求婚してしまったのだ!

そうか。
当時は全く気づかなかったが、場所が屋上だっただけに、籠手川は一部始終を見ていたってことか。
しかし、あの無様な姿を見られたのは確かにショックだが、果たしてそれは、籠手川《かのじょ》には関係ないんじゃないのか?

「籠手川…」

「正直!
…信じられなかったわ。あなたがあんなダサくっさい…、いえ、らしくないことをするなんて。
そんな未来、どこにも示されてなかったのに!」

「いや、だからそれは」

「大体、会社の屋上で告白なんてベタなことするひといる?!高校生じゃあるまいし…いや、今時、高校生だってそんなことやらないわ」

ああああああ…
モウヤメテ。
反論の隙も与えず、完膚なきまでに俺のメンタルをサンドバッグにするのは。

「しかも。
相手はどんな女かと思ってみたら、いかにもロッカールームでくっちゃべってそうな、デスクの引き出しにいっぱいお菓子隠してそうな、会社にとってなんの生産性もない部類の女じゃないの!
それなら私にだって…いいえ。
大神秋人。
あなたはね、打算で役員や取引先の令嬢を口説き落し、それを利用して上に上がるクズタイプの人間よ。それが嫌なら、仕事の上で共闘できる人と付き合うべき。
あの子はダメよ。八卦にも出てる。あなたに悪い運気を呼び寄せてるわ。
…私なら、この未知なる力であなたを助けてあげられる、
だから」
< 255 / 337 >

この作品をシェア

pagetop