夫の教えるA~Z
(ほらみて、あの子よ。例の…)
(ウッソまじでー?なんだブスじゃん)
(小学生かと思ったー)

ほらキタよ。
聞こえる音量のないしょ話。

会社のエース、もっとも役員の椅子に近い男といわれた社内一の有望株。
かつ、プライベートともなれば、会社の半分の女と関係を持ち、取引先の案内嬢を全てコンプリートしたなど、数々の下半身伝説を持つプレイボーイでもある『大神秋人』。

比して、会社時代、さっぱり目立つところのなかった、立ち位置モブキャラのわたし。

その期待のホープとモブが電撃結婚したもんだから、会社関連の行事において私は、身の程知らずだとかワニ女(いちど噛んだら離さないってコトね)だとか、散々の評判をいただいている。

(うわダッサ!なにあのワンピース)
(子供服コーナーで買ったんじゃないのー)
(すぐ別れるんじゃない)

などと、今日も散々だ。
ワンピースはアキトさんの見立てなんだけどね。

でも…
まあよい、ユルス。

あの(ムスメ)たちは、いわば犠牲者。
『大神秋人』のスペックに見てくれ、ひいては、悪魔的な外面(そとづら)の良さに騙されている、可哀想な人たちだ。

その本性が、ドSかつ、危ういまでの煩悩と飽くなき性欲を持ち合わせたド変態などという事実を、全く知らないだけなのだから。
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