夫の教えるA~Z
ああ、よかったなあ。
実果ちゃんキレイだったし、ちょっと頼りなさげだった白木君が、今日は何だかビシッとして、逞しく感じたな。
あの2人だから、きっとよく似た、仲良しのいい夫婦になるんだれうな。
…いいな赤ちゃん、わたしも欲しい。

わたしは、今日の主役の2人に思いを馳せながら、ウーンと伸びをし、月を見上げた。

弾むように歩むわたしの少し後ろから、アキトさんが着いてくる。
わたしは、思い切って尋ねてみた。

「いつから、気づいてたんですか?」

「…最初から。トーコが大事な親友放ったらかして、出ていくワケがないだろう。それに、あのキレッキレの着ぐるみ芸を、一体誰が仕込んだと思ってるんだ」

「…う。だって、アキトさんがあんまりにも無視するから。だからわたしは_____」

いつの間にか隣に並んだ彼は、ポンと頭に手を乗せて、自分の側にわたしを寄せた。

「まあ、放ったらかしたのは…悪かったよ。ビジネスチャンスだと思うとつい、夢中になってしまう。女性へのリップサービスもその、…クセみたいなもんで」

む、だからわたしは、寧ろ後者に腹を立てたんですよーだ。

バツが悪そうにポリポリ頬を掻く彼にどことなくモヤッとしながらも、こちとら大迷惑をかけた上、助けられてしまったという大きな弱味があるため何も言えない。

ま、太っ腹のトーコとしては、今回は手打ちとしてやろうじゃないか。

彼から下手に出てきたことで、わたしはすっかり気分を良くしていた。

「うん、まあそれは良しとしましょう。

…それでその…わたしがアキトさんにヘン顔とかしたり、挑発ポーズで煽ったり、突っ込んだりイロイロやったことは…」

チラリと上目遣いに、媚びた視線を投げたわたしに、彼はニッコリ微笑んだ。

「ああもちろん!それとこれとは…


話が別だ」

「ありがとう、サスガはアキトさ…え」

ニヤリ。
彼は今一度、腹黒く笑った。

「トーコぉ、よくも俺に、みんなの前で恥をかかせてくれたなあ。
罰として、"寂しくさせたお詫び"兼"超恥ずかしいお仕置き"で、たぁーっぷり、ご奉仕してあげようじゃないか」

「え、え?それって、ご褒美、お仕置きどっちなの?
今、罰って言ったよね、聞き間違いナノ?」

「いーや、合ってる💗」

その後わたしは、鬼畜夫にガッシリと肩をホールドされ、力強く引き摺られて、ホテルに戻ることになった。


イーーーヤーーー…


煌めく夜空に、虚しい叫びが吸い込まれていった。

(V おわり)
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