夫の教えるA~Z
「結婚式の後には言ってくれたじゃないか。トーコ…」

「そ、その名で呼ばないでっ!
あの時は特殊な条件下でして
…日常生活に戻るとまた違うんですよぅ」

 
…とても言えない。

私はね、貴方のその甘~いお声に弱いんですよ。
囁かれるファースト・ネーム、聞いただけで、身体の芯が蕩けてしまって…

オカシクなっちゃうんですよーー‼

だからそう。

名前を呼びあうなんてとんでもない、
私はきっと気絶する。
 
 
「どうしても……言ってくれないのか」

突然、彼は打ち捨てられた仔犬のような、哀しげな目で私を見下ろした。

クールな貴方様らしくもない、そんなお目目で、見ないで下さい!

申し訳なさでいっぱいになるじゃないですか。

「は、はい。今日のトコロは…
あのっ、しかし明日には必ずや…」

「そっか…」

彼は残念そうに頷いた。


取り敢えずの危機を脱したと、ホッとした私は、立ち上がろうと手を床に突く。

と…
 
「ふっぅ…わ…」
「トーコ…」

耳を…
甘噛みされた。

「な、なな何を、なさっておられるんですかっ」

「お仕置き。
明日できる事は…今やるべきだ。ペンディングは嫌いだな」
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