夫の教えるA~Z
その数日後_____
その日私は、14時から19時のシフトでジムに入っていた。
「すみませーん、受付お願いしまーす」
「あ、はい。ではこちらにお名前を…え、松田くん?」
時刻は約18時半。
パソコンから顔を上げた私は、その人物を見上げ驚いた。
「え?どうしたの松田君、え?え?もしかして…」
「はい!思い切って入会しちゃいました。
…僕あれから考えたんです。やっぱり人に頼ってちゃ駄目だって。
ほら、最初に奥さんが、僕に言ってくれたでしょ?
で、まずは夏子さんに少しでも認めてもらうため、取り敢えず肉体を鍛えようと思いまして。
それに…やっぱり会う機会だって増やしたいですしね。
あ、仕事の方ももうすっかり順調です。
全部奥さんのおかげです、ありがとうございました!」
「いやー、私は別に何も…」
なんと、相変わらずタフな精神力だ。
しかし、何故筋肉方向にいっちゃうかなー。
半ば感心し、半ば呆れているところに、向こうの方から鼻唄を口ずさみながら、夏子さんが現れた。
すかさず松田それに気づき、手をブンブン振り回す。
「あ、夏子さ~ん♥️」
「げ…」
彼に気づき、一瞬、凍ったように立ち止まった夏子さんは、そこで回れ右をしかけて躊躇し、再び前を向いた。少し迷っているふうだったが、やがて諦めたいうふうに、スタスタこちらへやって来た。
すぐさま松田君は、夏子さんに走り寄る。
「何よあんた、今日も来たの?」
「夏子さん、あの、あの、
今日は僕、ウエイト60キロから挑戦しようと思うんです」
「あっそ」
「それで、よかったらいいやり方とか教えて貰えませんか?
ほら、せっかくやるんなら、いい筋肉つけたいですし…」
「はあ?甘えんじゃないわよ。あんた体重何キロ…えーっと55キロだったっけ?なら、60は余裕でしょ」
「えー!無理ですよ、僕、ずっと文系だったんですから。昨日なんて50キロ3セットでクタクタでしたよ~」
「甘えんな!
80キロよ、80キロ。そこまでいけたら、私が稽古つけたげる。それまでは自力で頑張んなさい!」
「えー、そんなあ~」
「________!」
「________ 」
うーん、すごいな松田くん。粘り強く会話してる。
その打たれ強さはまるで、何度倒されても起き上がる伝説の玩具、オキアガリコボシのよう。
しかし…こうやってみていると案外、お似合いのふたり、かもしんない。
夏子さんに一方的にどつかれながらも、キャッキャとはしゃぐ松田君。
連れだって遠ざかってゆく2人の背中をぼんやりと眺めながら、私は、どことなく心の隅っこがほんわか温たたまってゆくのを感じていた。
《Xおわり→Yにつづく》
その日私は、14時から19時のシフトでジムに入っていた。
「すみませーん、受付お願いしまーす」
「あ、はい。ではこちらにお名前を…え、松田くん?」
時刻は約18時半。
パソコンから顔を上げた私は、その人物を見上げ驚いた。
「え?どうしたの松田君、え?え?もしかして…」
「はい!思い切って入会しちゃいました。
…僕あれから考えたんです。やっぱり人に頼ってちゃ駄目だって。
ほら、最初に奥さんが、僕に言ってくれたでしょ?
で、まずは夏子さんに少しでも認めてもらうため、取り敢えず肉体を鍛えようと思いまして。
それに…やっぱり会う機会だって増やしたいですしね。
あ、仕事の方ももうすっかり順調です。
全部奥さんのおかげです、ありがとうございました!」
「いやー、私は別に何も…」
なんと、相変わらずタフな精神力だ。
しかし、何故筋肉方向にいっちゃうかなー。
半ば感心し、半ば呆れているところに、向こうの方から鼻唄を口ずさみながら、夏子さんが現れた。
すかさず松田それに気づき、手をブンブン振り回す。
「あ、夏子さ~ん♥️」
「げ…」
彼に気づき、一瞬、凍ったように立ち止まった夏子さんは、そこで回れ右をしかけて躊躇し、再び前を向いた。少し迷っているふうだったが、やがて諦めたいうふうに、スタスタこちらへやって来た。
すぐさま松田君は、夏子さんに走り寄る。
「何よあんた、今日も来たの?」
「夏子さん、あの、あの、
今日は僕、ウエイト60キロから挑戦しようと思うんです」
「あっそ」
「それで、よかったらいいやり方とか教えて貰えませんか?
ほら、せっかくやるんなら、いい筋肉つけたいですし…」
「はあ?甘えんじゃないわよ。あんた体重何キロ…えーっと55キロだったっけ?なら、60は余裕でしょ」
「えー!無理ですよ、僕、ずっと文系だったんですから。昨日なんて50キロ3セットでクタクタでしたよ~」
「甘えんな!
80キロよ、80キロ。そこまでいけたら、私が稽古つけたげる。それまでは自力で頑張んなさい!」
「えー、そんなあ~」
「________!」
「________ 」
うーん、すごいな松田くん。粘り強く会話してる。
その打たれ強さはまるで、何度倒されても起き上がる伝説の玩具、オキアガリコボシのよう。
しかし…こうやってみていると案外、お似合いのふたり、かもしんない。
夏子さんに一方的にどつかれながらも、キャッキャとはしゃぐ松田君。
連れだって遠ざかってゆく2人の背中をぼんやりと眺めながら、私は、どことなく心の隅っこがほんわか温たたまってゆくのを感じていた。
《Xおわり→Yにつづく》