夫の教えるA~Z
夜、大神家の食卓。
俺は、今日偶然見かけた奇妙な出来事を真っ先にトーコに話した。
するとトーコは、たちまちピンときた様子で、嬉々として話し出した。

「ああ、それなら_____

(トーコの説明が延々続いてます)

_____ってなことがありまして」

「げ、マジかよ…」

頭を抱えた俺に、基本空気を読まないトーコは元気よく返した。
「はい!
イヤー、にしても、もうそこまで進んでいたとは。
いえね、最近ジムで、一緒にいるとこ割りとよく見かけるようになったんですよね。まあ、私が見る場面は殆んど松田くんが夏子さんに話しかけにいって、軽くあしらわれてるだけだったんですけど…
意外とふたり、お似合いだとは思うんですよね、ね?」
「んー、どうだろうな…」
複雑な気分で俺は言葉を濁した。

前にも言ったかも知れないが、基本的に俺は、他人の恋路には全く興味がない。俺の関係ないところで、誰がどこで誰とお付き合いしようが、知ったこっちゃない。

ただし、自分の身内、夏子姉ちゃんとなると話は別だ。
何故ならば、夏子が悲しめば父ちゃんや母ちゃんが(今ではトーコも)悲しむから、それは俺に関係ない事じゃない。
そもそも夏子《あいつ》は、男運が悪すぎる。あいつ自身が荒れていたせいもあるんだが、向こう見ずで面倒見が良く、ダメな奴を放っておけない性格のせいで、いつも変な奴に取りつかれている。

ただ、松田は悪い奴じゃない。
少なくとも、今までの姉ちゃんの男性遍歴からみると段違いだ。
何せ、既婚者でもないしヒモでもない、定職にもついている。DVもないし、アル中でもギャンブル依存症でもない。
加えて、アイツの危ない嗜好が立ち消え、俺やトーコに危害が及ばないのであればなおさらいい。

ただ…
やはりどうしても心配だ。

まだまだ学生気分の抜けない松田と、苦しい恋をいくつも越えて、そろそろアラフォーに近づいている夏子じゃあ、恋愛観や価値観だって違うだろう。
それに松田の奴、まだ覚えたてで(何を?)遊びたい、ヤりたい盛りのはずだし…

夏子はまた、傷つけられやしないだろうか。

でもま…俺がどうこう考えたってどうしようもないよな、そういうのは。

ニコニコ顔で唐揚げを頬張るトーコをぼんやりと眺めながら、俺は付け添えのトマトを噛み締めるのだった。
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