夫の教えるA~Z
イライラと足踏みをする俺の横で、気落ちした松田の声が静かに響く。

____
誰かから聞いたのでしょう。
騒ぎを聞きつけた彼女が、向こうから飛んでやってきました。すっかり頭に血が上っていた僕は、それに気が付かず大声で叫んでしまいました。

「僕は本当に夏子さんの事が好きなんです!愛してます!年齢とかなんだとか、そんなのどうだっていいんです。僕の好きな人のことを、二度とそんな風に言うなっっ」

すぐそこに彼女がいたことなんて、僕は全然気が付きませんでした。

「うっはああ~、メチャかっけえ!初めて見たわ、そんなノリで告白する奴。
だ~ってよ、どうする?大神さん」

春日さんに言われて、ようやく僕は気が付きました。
恐々後ろを振り向くと。

彼女は、かつて見たことがないくらい顔を真っ赤にして___

怒っていました。

ん?
ポカンとしている俺の横で、松田は再び瞳を潤ませ始めていた。

_____
「ちょっと来なさい!」
彼女は、部屋から僕を引きずるようにして連れ出しました。

人気のない、建物外の植込みのあたりまで来て、彼女は震えた声で僕に言いました。

「…もう、二度と来ないで」

って。

その間彼女はずっと俯いていて、表情は全く見えません。
でも声の感じからして、ものすごく怒っていた、と思います________
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