夫の教えるA~Z
エ、なんで?
ポカンとしてる俺の前で、松田はさめざめと泣きだした。

「僕、夏子さんに優しくしてもらえて、すっかり浮かれちゃってたんです。だからあんなどさくさ紛れに告白みたいなことを…
しかも、彼女の職場で。
僕のせいで、夏子さんにすごく嫌な思いさせちゃいました。春日さんや仲間の皆さんとも働きにくくもなっちゃったと思います。
折角親切にしてもらったのにすっかり迷惑かけちゃって…
僕なんかが好きになったから。僕のくせに…
昨日から、
"もう行っちゃいけない"
って、ずっと自分に言い聞かせてます。
でもそれ、すごく苦しいです。
うう、う…
ウワーーーーーーーン!!」

感極まり、再び俺に抱き着いてきた松田を振り払いもせず、俺はずっと松田の話を頭の中で反芻していた。

え、待って。
松田《こいつ》がもう、夏子って隠すのも忘れちゃってることは横に置いとくにしても…

夏子、なんでそこで怒んの?
俺ならむしろ喜ぶってか、そこまで言われたら惚れるよ?
何ならさっき、ちょっとキュンときちゃったもん、松田なのに。
もしかして夏子、単に嬉し恥ずかしかっただけなんじゃねえの???

______

「今日は…取り乱しちゃって…すみませんでした…ぐすっ」
「ああ、気にすんな。今日は帰ってゆっくり休めよ」
「僕、本当に何やってもダメで…そのスーツも汚しちゃって…」
「ああ、分かったから。頭が回らない時に仕事しても効率が悪いだろ?
頭を冷やしてすっきりした方がいい」
「その…」
「わかったから、はよ帰れっ!」

ぐずついている松田を何とか帰し、物思いに耽りながら帰路につく。
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