夫の教えるA~Z
その夜、胸に抱いた疑問を俺はトーコにぶつけてみた。

「なあ、トーコ」
「ぴゃっ」

ベッドの上でスマホをいじり、懸命に電子コミックを漁っていたトーコを、俺は後ろから抱きしめた。
変な悲鳴とともに、身を固くするその反応に嬉しくなって、伸ばした足で挟み込んで、耳元に軽くキスをする。
と、パタパタ手足を動かしながら、慌てた様子で彼女は俺を牽制した。

「だ、ダメですよ、そんな甘ったるい声出したって。何故なら今日はトーコは女の子の日…」

「あ、いやそうじゃなくて。あの、ちょっとお願いがあるんだけど。
週末さ、俺と一緒に実家行ってくんない?」
「は…?そりゃあまあ…別に構わないですけど。でも何で?アキトさんいつも”叱られるから”って実家避けてるのに」

俺が、松田から聞き及んだ出来事を簡単に説明すると、

「あー…、それは」

トーコは難しそうに顔を顰めた。それから、ほんの少し顔を曇らせた。

「夏子さんって、実はすごくモテるんですよね。それは心底羨ましい話なんですけど、その分ウラミも買っちゃうというか…曲がったことが嫌いで思ったことはきっぱり口に出しちゃう人だから、特に執念深い男の人には。春日さんも、普段はいい人なんですけどね」

「…最後のはあんま認めたくないけどな。
たださ、俺が夏子なら、ってか夏子の性格ならむしろ嬉しいんじゃないかと思うんだよな。
まあ、何せあの松田だし、変わったタイプのヤツだし、生理的な好き嫌いだってあるだろうから、こればっかりはなんとも言えないが」

トーコは何とも微妙な顔をした。

「うーん、どうですかね…
つまりアキトさんは、実家にいって夏子さんの本心を探ってみたいということですよね?
分っかりました、このトーコにお任せください!」
< 317 / 337 >

この作品をシェア

pagetop