夫の教えるA~Z
「ありがとう、トーコ」
感謝の意を込め、彼女の身体をゆりかごみたいに揺さぶると、前に合わせた手の甲に、小さな掌が重なった。

「なんか…ちょっと嬉しいかも。1年前なら、私が大神課長(オオカミサン)に頼られることなんか、絶対に有り得なかったから」
「はは…、そうだな」

確かに、1年前の俺は予想すらしてなかっただろう。
自分が結婚していることも、ましてやその相手が赤野燈子であることも。

そうだ、そろそろ1年になるんだよな。

俺は、ゆっくりと彼女を揺らしながら、俺より一回り小さなトーコの手を再び自分の掌で覆った。
すると彼女は、嬉しそうにその手に頬を擦り寄せる。
どことなく幸せな気分で、俺達はその夜、いつまでもずっと、そうしていた。
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