夫の教えるA~Z
ふと気がつくと、いつの間にやら太陽が3時くらいの方向にある。

と、白木くんは思い出したかのように
 “今日は日焼けして帰るんだった!”
と砂浜に寝そべりに行ってしまった。

彼には色白コンプレックスがあるみたいだ。


まだ遊んでいたい私と実果ちゃんは、デッカイ浮き輪でクラゲのように、浅瀬の波間にプカプカと浮かんでいる…

と、ふいに実果ちゃんが顔を上げた。

「あれ?…あそこにいるの、大神サンじゃない?」
「ほえ?」

ここから30メートルほど先のフィッシング・レーンに釣人が3人、腰掛けるのが見えた。
 
危うく眠りかけていた目を擦ると、
河岸を変えて来たらしい彼とその連れが見えた。
接待相手の鈴木社長の秘書らしき女の子も一緒だ。

「あ、ホラホラ。やっぱり大神サンだよ、ほらトーコ!」

嬉しそうに肩をつついた実果ちゃんは、ヒラヒラと向こうに手をふった。

彼は、一瞬こちらに目を留めたが、すぐにフイと顔を逸らして連れと談笑し始めた。

「あれえ?どしたんだろ。私達に気づかなかったかな…」 
「さ、さあね……」

「行ってみる?」
「だ、ダメダメ‼」
 
“仕事中はダメなんだよ”
どことなく気まずい私は適当に誤魔化して、少し遠くに泳いで離れた。
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