夫の教えるA~Z
「“うきゃっ”って、サルじゃないんだから。早くしなさい…もっとやるぞ」 

もうやってんじゃん!
 
などとツッこんでいる間にも、攻勢は威力を増してくる。随分と楽しそうだ。

 
だ、ダメ。これ以上ヤられると耳だけで……そんなの恥ずかし過ぎる!


「……お願い、します。どうか、
い、言わせて…言わせて下さい……ダンナ様っ」

とうとう私は、真反対のお願いをさせられていた。

「フッフッフ…良いだろう」

彼は満足げに笑い、ようやく私の上から退けた。

膝はガクガク、生まれたての小鹿のように、自力で立てない私を余裕たっぷりに引き起こす。

「はい、どうぞ」

対面に座らせた私を眺めながら、ニコニコと嬉しそうに正座して待つ。

私が思わず目を反らすと、反らした側にススス…と移動した。

イジワルだ。

「あ~…うぉっほん!あ~…」
「おい」

「発声練習です!あ~……行きますよ?」
「おう」

「あ~…アキト…サン…」
勢いよく滑り出したものの、語尾が消え入りそうにフェードアウトしてしまう。

「え、何だって?」
彼はちょっと前に一世を風靡した某N議員のように、大袈裟に耳に手をあてた。

くそう。
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