夫の教えるA~Z

「トーコ…」
溜め息混じりの声が耳腔を擽った。
ドキリと鼓動が脈を打つ。
 

「『可愛い』なんて何百回でも言ってやる。
だから今度は二人っきり。誰もいない海へ行こう…約束…な?」


数秒間の思考の末に。

「…………ハイっ♥」
 
私はあっさり誤魔化された。


数分後、2人仲良くベッドに並び、楽しい計画を語り合う。

「あ、でも、なかなか……ないですよ、プライベートビーチなんて」

「それもそうだな…
じゃあ、家のフロでいいや。明日な」

「や、イヤですよ、そんな。
オフロで二人を水着で戯れてたら、ヘンタイみたいじゃないですかっ」

「さて、明日は仕事っと。
おやすみ、トーコ…」

zzzzzz…

「ちょっときいてぇえ、イヤですからね~⁉」



部下3年+結婚4ヶ月。
 
私はいつも、彼を完璧な判断力を備えた人だと尊敬してきたんだが。
 
一体彼には何が見えているのか、もしかしたら実は私よりアホなのかもしれない。



私は、未だ彼を掴みかねている。

(G おわり)
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