夫の教えるA~Z
「アキトさん、アキトさん、アキトさん!……どうだあっ!」

ハァハァ…
あ~、恥ずかしかった。
 
あれ?でも言っちゃってみると、何かキョリが縮まったというか、親しみが……

お、おお?

すると彼が、蕩けるような笑顔を見せた。

ウンウンと頷き、頭をヨシヨシと撫でている。
 
たまぁに仕事が成功した時。
オオカミカチョーがこうやってナデナデしてくれて、嬉しかったのを思い出す。

だから私は調子に乗って、何度も繰り返し名前を呼んだんだ。

「え、へへ…アキトさん?」
「いいね」 

「アキトさん」
「ああ…」

「アキトさん♥」

延々それを続けていると、彼との距離は縮まってゆく。

と、いつの間にやら至近距離。脳髄の奥に染むような美声で、私の耳に囁いた。

「じゃあこれは……ご褒美だ」
「ひっ……」

彼は私の腰を引き寄せて、自分の膝上に乗せた。
片方の耳朶を擽りながら、もう片方をかっぷり銜え、それを舌先で弄ぶ。 

カチョー、
ではなくて、アキトさん。

貴方ねえ……

お仕置きとご褒美、一緒じゃないですか。 

容赦なく与えられる性感に、フヤケていく脳の片隅でそんなことを考えながら、
 
ガックリと事切れた。

「おーい、トーコ………」

薄れゆく意識の中、彼の長い溜め息が聞こえた。


(A おわり)







 


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