夫の教えるA~Z
夫、大神秋人が暗い復讐心を滾らせていた頃。

妻、大神燈子(私)は夫の実姉、ナツコさんのハーレーに跨がり、タンデムで市内の創作居酒屋に向かっていた。

「ナ~ツ~コ~さぁぁん、本当にアキトさん、オッケー取れたんですよね~」

「エー、何~?聞こえな~~い」

不安な私は出発時から、何度も同じ質問をしているが、時速100キロで快調に飛ばす轟音に、声はなかなかとどかない。

「だ~~か~~ら~~、許可ですよ~~」

「あ~~、オッケーよオッケー」

「本当かなあ~~~」

「いけない遅れるわ!飛ばすわよ、サア。しっかり掴まって‼」

うっきゃああああああ~~‼

身体に感じる重力に口を塞がれて、彼女の腰にシッカと巻き付いた。

一方前で運転するナツコは、ペロリと小さな舌を出す。

無論、連絡などしていない。

何故ならば彼女は、弟を説得するコトが超メンドクサイことを熟知しているからだ。
 
何、トーコちゃんをアイツの帰宅時間(9:30)までに帰せば問題ない。
 
これで彼女としては、どちらにも義理を果たせる……はずだった。
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