夫の教えるA~Z
すると、
「どっか具合でも悪いの?真っ青だけど」

銀行員サンが助け船を出してくれたではないか!
ここぞとばかりに食らい付く。

「ああ、そう!それなんです。
ちょっとお腹が冷えてまして……悪いんですが帰りま~…」

コレ幸いと、脱兎の如く逃げ出そうとした時だ。
一番端にいたデッカイ男が立ち上がるのが目に入った。

どうやら、今日はとことん厄日らしい。

「あれぇ?……ヤッパリ。誰かと思ったら……赤野?赤野トーコじゃねえの‼」

ム?あれは……

「う、うわわっ…タケル先輩⁉」

「何だよ~、元気そうだなぁ?ホラ、こっち来い!」

彼は、自分の隣の席をパンッと叩いた。

どうやら“どこぞの大学”は、私の出身校だったみたい。
何と学生時代のサークルの先輩に鉢合わせてしまったのだ。

2つ上のこの先輩、背の高いスポーツマンで、見た目は悪くないんだけど、強引かつ絡み癖のある、ちょっと困ったヒトなんだ。

学生時代、気弱な私がよく押し付けられ、やむなく面倒を見させられた。

…知り合いだらけじゃないか…

「いやあね、この子は何から何まで俺が面倒みてやって……」
グイッと引っ張り肩を組む。

「はは、ハナシテ…」
「照れるなよ、トーコ」

「へぇぇ、そうなんですか」
(ニコニコ)
全く目が笑っていないのに、完璧な作り笑いのアキトさん。

神様、私は前世でよっぽど悪い事をしたんでしょうか……

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