夫の教えるA~Z
 本能が、真の危険を告げていた。

 コワイ……タスケテ
 私は、ナツコさんにSOSの合図を送る。

 察知したらしいナツコさんは、何か言おうとはしたが、彼の顔を見て口をつぐんだ。

 ゴメンね、テヘっと両手を合わせる。

そ、そんなあ……


 彼は真に残虐な王として、冷酷無比な笑いを浮かべた。


「…じゃあそろそろこの子、連れて帰ります」
「ギャ……」

 私の蛙の潰れたような声とともに。

 彼は私を荷物のようにヒョイっと担いで立ち上がる。

 すると、
 ハッと場の催眠術がとけたように次々と非難の声が上がりだす。

「ち、ちょっとアンタまてよっ」
「大神…まだ時間が終わってない……」 
「エー、イヤだあ、大神サンっ」

しかし。

「何か?」

 彼がザッと場を見渡すと、再びそれは鎮まった。
 彼は満足げに笑んで頷き、肩上の私に問いかけた。

「文句はないよな、奥さん?」

「……ハイ……」

 担がれたままジタバタする気力もなく、私は彼に同意した。

 皆、黙りこんだ。
 ついでに助けてもくれなかった。

 手には戒め、彼に担がれた状態で、私はソコを後にした。

「俺のネクタイ……」


 私、どうなるの?


(I おわり →Jにつづく)
 
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