夫の教えるA~Z
「う、うわぁ、私ラブホテルって初めて来たな~~」
「………」
「こういうのも、タマにはいいかも?なんてね~~」
「………」

 その夜。
 夫、大神秋人は、生まれて初めて“女”に腹を立てていた。
 平たく言うとマジギレした。

 それも、彼がこれまで猫可愛がりに可愛がり、散々甘やかしてきた最愛の女にだ。


 赦せない。
 こいつだけは絶対に。
 何がって?
 この期に及んで、また茶化して誤魔化そうとしているからだ。


 店を出て5分程度の、ぱっと目についたホテルにチェックインしたのが少し前。

 地方都市にありがちな、ところどころに亀裂の入ったボロの古びたラブホテル。

 大人しく肩に抱えられたままの彼女を、埃っぽいベッドに放り投げた。

“イタタッ”と小さく彼女が呻く。
 
「そ、そろそろこのネクタイは…解いて貰えませんかねぇ……」
 セリフの語尾は、小さくフェイドアウトした。


 俺はそれには答えない。
 ひきつり笑いの彼女を見下ろし、脱いだスーツをキッチリハンガーにかけた。
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