夫の教えるA~Z
 据えた黴埃に混じる雌の匂いが、ますます劣情を煽った。

 興奮で脈打つ身体は、言葉を流暢に謳わせない。

「オマエがさあ…自分をどれだけ低く見積もろうと勝手だ…」
 
 何度もイかせた筈のそこに、更に深く挿し込んだ。

 半泣きに、叫んだ。

「だけどさあ…俺のために……自分を安売りしてほしくは……ないんだよっ」
 
 時間が長くなってくると、潤いを失ったソコはいつもよりずっと抵抗感がある。

 俺を拒否しているかに見えて、引き抜いてもう一度唾液で満たす。またイヤらしく濡れてくる。

 再び無理矢理に突っ込むと、彼女は力なく、イヤイヤと首を振る。

 後ろめたいのに、ますます苛立ちが募った。

何でだよ?

 もっと怒れ、俺を嫌え。

 怒りを身体全部で受け止めろ。

 やり過ごそうとするんじゃねえ!


「っ…」


 怒りに任せて吐き出した精とともに、心の波が静かに凪いでいく。


 うつ伏せに、寝そべる彼女を見下ろした。
 声を上げずに燈子が泣いた。
 こっそり目を拭ったのが、視界の端に見えた。

 憑き物が落ちたように冷静になると、苦い後悔が襲った。


 サイテーだ。とうとう泣かせた。

一番可愛い大事な女を傷つけて。

 
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