青春グラフィティー*先生と生徒の関係。
きっと気のせいだ。
俺が新任の保健室の先生に配属された高校には、変な女子生徒がいた。
毎朝保健室に入り浸って、朝のショートが始まるギリギリまでいる女子生徒。
俺を見つけると嬉しそうに、犬みたいに見えない尻尾をぶんぶん振って駆け寄ってくる女子生徒。
見た目は良いが、俺は自分の性格の悪さを知ってるから、なんで好かれてるのかわからないが…。
そんな女子生徒の名前は、西村姫乃。
他の生徒からは保健室に入り浸っているのが知れているのか、『保健室の眠り姫』なんて変なあだ名が付いている。
そんなことに本人は気づいてないから、いつも当たり前のように決まって7時30分に保健室に来る。
ーーーけど、ここ最近保健室の眠り姫は来ない。
眠り姫が来なかった初日は、ただ静かで仕事が捗るとしか思ってなかった。
2日目も同じ感じで、4日目辺りから違和感を感じ始めた。
その時やっと煩い原因がいないことに気づいた。
見ていた手元の資料から視線を上げて保健室の中をぐるりと見回してもいない煩い女子生徒。
その事に気づいてから、なんでか仕事に集中出来なくなっていた。
「…煩いのが居なくなって清々しますし、仕事も捗って良いじゃないですか…」
そう呟いてみるが、何故だか虚しい。
ーーーもしかしたら、俺の気を引くために保健室に来ないのかもしれない。
そんな自意識過剰だと言える考えをいつの間にか思っていた俺は、自分で自分のことを殴る。
「…確か今日は三年生のクラスの授業があったはず」
必要な教材とボールペンを一つ持って、保健室に鍵をかけて三年生の教室へと向かう。
保健室は一階にある為、三年生のある階へと上へと向かう階段を登って行く途中で、階段を下りていく生徒が2人。
「西村、お前また馬鹿なことしたんだろ?」
「いんやー、そんなことはないんだけどなー」
「だったら藤センがあんなに怒るわけないだろ」
「だって藤田先生が変なこと言ってくるんだもん」
隣にいる短髪黒髪の男子生徒と仲良く喋りながら階段を下りていく眠り姫と目が合った。
「…っ」
が、すいっと何もなかったようにすぐに視線は逸らされた。
「あ、十河先生じゃん。これから授業?」
「っ、はい。…次の授業が移動教室なら遅れないように気をつけてくださいね」
俺の言葉に男子生徒は気の抜けた返事をすると、眠り姫とすぐに背を向けて歩いて行った。