屋上カメラマン
「どうして……」

 ようやく何かを言いかけたと思ったら、すぐに口をつぐんでしまった。どうして、の後には「こんなところで写真を撮っていたの?」とか「携帯を返したの?」とかが続くのだろう。

「乱暴な事して悪かったな」

 彼女の疑問の言葉が最後まで続かなかったのをいいことに、何よりも先に言っておきたかった謝罪の言葉を口にした。

 さらに混乱を深めてしまったのか、彼女は上唇をギュッと噛んで、額に皺を寄せ、辺りをうかがうようにキョロキョロとし始めた。彼女の写真は何十枚と撮ってきたが、こんな仕草を見るのは初めてだ。

「信じてくれないかもしれないけどな、俺は君が思ってるような悪い人間じゃないんだ」

 俺がそう言うと、彼女はようやく視線を定めて俺を見た。いつの間に拭っていたのか、彼女の目尻に溜まっていたはずの涙はすっかりなくなっていた。

「私を突き飛ばしておいて、よくそんなことが言えるわね」

「それはだから……ごめん」

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