屋上カメラマン
「許可なく撮ったら盗撮だろ。まぁ、俺は撮られても全然構わんが。たぶん嫌な気がするヤツもいるんじゃないか」

「誰にも迷惑はかけてない。ほっといてくれ」

 ドンは緩慢な動きで起き上がり、何事もなかったようにまたレンズを覗き込む。

 さて、どうしたものか。確かに誰かに迷惑をかけているわけでもないし、放っておいていい気もする。わざわざ面倒事を大きくする必要もない。よし、このままにしておくか。

「……ちょっと待て」

 きびすを返して帰ろうとした俺を、なぜかドンが呼び止めてきた。

「そうだ、やっと分かった。今日がその日なのか」

 ドンは呟く。自分から構うなと言っていたくせに、自分勝手なヤツだ。

「僕について来い」

 俺の返事も待たずにドンは勝手に歩き出す。俺が付いて来るものだと信じ込み、微塵も疑っていないようで、振り返りもしなかった。

 このまま放っておいてもいいのだが、ドンがどこへ行こうとしているのか、どうも気になる。結局、おとなしくついていくことに決めた。
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