ツインクロス
(結局…雅耶には本当のことを言えなかったな…)

関係のない雅耶を余計なことに巻き込みたくなかった。
だから、あの男が言っていたことなどは何一つ雅耶には話していない。ただの空き巣らしき人物に偶然出くわしてしまった…ということになっている。
でも…。
心から心配してくれている雅耶に嘘をついてしまったことの罪悪感がどうしても消えないでいた。
(今の『冬樹(オレ)』という存在そのものが『嘘』の(かたまり)なのにな…。今更、そんな小さなことを気にしてるなんて…笑っちゃうよな…)
冬樹は、自嘲気味に頬を緩ませた。

あの後…雅耶は、心配してずっと傍についていてくれた。
帰る時も、祝勝会の時間が近付いていたのに、わざわざ家まで送ってくれた程だ。
(雅耶は過保護なんだよ…)
そして、無条件に優しい。

野崎の家を出ようという時に、オレを家まで送って行くと雅耶が言い出したので、本当はその場で断るつもりだった。


「…もう、オレは大丈夫だから…お前は祝勝会行ってこいよ。主役が遅れたらみんなが困るだろ」
笑顔を見せて、平気さをアピールした。
だが、雅耶は有無を言わさぬ口調で言い放った。
「もう、直純先生には遅れるって連絡を入れてある。それに…。こんな時ぐらい少しは頼ってくれてもいいんじゃないか?冬樹…」
「………」

真っ直ぐに見詰めてくる瞳。
この表情には見覚えがあった。
空手の時見せていたのと同じ…真剣な眼差し…。

「お前が、今まで一人で気を張って生きて来たのは解る。でも、今は違うだろ?今は…俺が隣にいるんだ」
「…雅耶……」
「俺には、あんな目にあったお前をこの場に放って置くことなんて出来ないよ。お前は大したことじゃないから(おおやけ)にしたくないと言ったけど…そうやって拒むなら俺にだって考えがある」
「…考え…?」
「そう。警察に行く」
「…雅耶…」

(…脅しかよっ)
思わず心の中でツッコミを入れてしまう。

「だって、心配で仕方がないんだ…」

徐々に陽が陰り、薄暗くなってきた家の中で。
雅耶は床に座り、目の前のソファに座る冬樹の目を真っ直ぐに見詰めながら言葉を続けた。

「冬樹は何でも一人で頑張り過ぎなんだよ…」
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