ツインクロス
冬樹はベッドに伏せた状態から仰向けに体勢を変えると、目の前にある白い天井をぼんやりと眺めた。

雅耶の優しさは、正直嬉しい…と思う。
でも…その優しさに甘えていると、何だか『冬樹』でいられなくなってしまうような気がするのは何故なんだろう…。

昔から変わらない、人懐っこい笑顔。
自分を真っ直ぐに見詰めてくる優しい瞳。
隣にいると安心する、空気感。
そして…。
ピンチの時には助けに来てくれる、頼もしい幼馴染。

(…今日のは、たまたま運が良かっただけだけど…)
でも、雅耶があのタイミングで来てくれなかったら、自分はどうなっていたか分からなかった。
あの男は『殺しはしない』…とは言っていたけれど、何の情報も持たないと判った時点で、何をされるか分からない。
それ位、あの男からはどこか危険な『臭い』がした。
だから、今日は本当に雅耶に命を救われたと言っても良いだろう。

(前に…西田さんに絡む上級生達に掴まった時も、突然雅耶が助けに入ってくれたんだよな…)
もう駄目だと思った瞬間、突然目の前に現れた広い背中に驚いた。
あのゴツイ上級生にも力負けしていなかった雅耶。
そして、言葉は丁寧なのに相手を怯ませる程の鋭い気迫で…。
妙に雅耶が大きく見えたのを覚えている。
(あの時も…。倒れたオレを、雅耶が保健室まで抱えて運んでくれたんだっけ…)

そんなことをぼんやりと思い返していた時。

突然…昼間雅耶に横抱きに抱え上げられた時の光景が、冬樹の脳裏をかすめていった。
自分とは違う…Tシャツの袖から伸びる逞しい腕に、軽々と抱え上げられた時の、その雅耶の力強さと。抱き留めるその腕には、自分の身体を気遣うような優しさも感じられて。
その時の雅耶と自分との距離の近さを改めて思い起こしてしまった冬樹は、突然ガバッ…と飛び起きた。

「……っ…!」

咄嗟に左手で口元を押さえる。
妙に心臓がドキドキ…と、音を立てていた。
いつもよりも早いリズムを刻む、その自分の胸にそっと右手を押し当てると。
「な…何だって…いうんだよ…。そんな…今更……だろ…?」
冬樹は、思わず行き着いてしまった自分自身の気持ちの答えに驚きを隠せなかった。
暫く呆然としていたが、不意に部屋の中の暑苦しさを感じて、冬樹はベッドから降りると窓を開けた。

「………」

窓を開け放っても外の空気は蒸し暑く、熱を持った頬を冷やす事は出来なかった。


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