ツインクロス
午後8時半過ぎ。

『Cafe & Bar ROCO』で開かれていた打ち上げ祝勝会は、無事お開きになり、店の前にはぞろぞろと人が溢れていた。
そのまま二次会に流れる大人達もいれば帰路に着く者もいて、皆それぞれがバラバラの方向へと散って行く。
この半端な時間にお開きになるのは、沢山いる学生や子ども達の帰る時刻があまり遅くならない為の、直純なりの毎度の気遣いだった。
直純と話し込んでいた雅耶が、最後に店を出て来る。

「それじゃあ…先生、また稽古お願いしますっ」
「おう、またな。今日は本当におめでとうなっ」
見送りに出て来た直純に雅耶は一礼すると。
「おーいっ雅耶っ。こっちこっち。帰るぞー」
「あっ、うん。今行くー…」
待っていてくれた仲間達の元へと足を向けたその時だった。

「あ…あのっ…久賀くんっ」

雅耶は、横から現れた人物に突然呼び止められた。
「…えっ?」
そのまま目の前に飛び出してきた人物に、慌てて雅耶は足を止める。
それは雅耶には見覚えのない、知らない女の子だった。
女の子は真っ赤な顔をしてじっ…と、こちらを見上げている。
「え…っと…?」
雅耶は戸惑いながらも、その子が自分の名を口にしたので、何処かで会っただろうかと頭の中で必死に模索していた。
女の子は暫くモジモジしていたが、意を決したように両手を雅耶の前に掲げると「これっ!」…と、大きな声で言った。
その手には、一枚の封筒が掲げられていた。
「久賀くんのことが好きですっ!その…良かったら、付き合ってくださいっ!!」
女の子は大声で言い切った。

「……っ!?」

驚きのまま固まっている雅耶の後ろで、仲間達が「おおーーーっ!」…と、大きな唸り声を上げていた。未だ店先に立っていた直純も、突然目の前で始まった告白劇に驚き、目を見開いてその様子を眺めていた。




その翌日以降。
成蘭高校の校門前には、放課後になると毎日のように誰かを待ち続ける女の子が目撃されるようになった。
女の子は、成蘭高校の近くにある私立女子高の制服を着ていて、流石に男子校の前では目立つ存在だった為、噂が校内に広がるまでに数日も掛からなかった。
そして、その相手が雅耶であることも、すぐに周囲には知られることとなる。

そして…。
それは冬樹の耳にも当然、自然に入って来るのだった。

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