ツインクロス
(ふーん…。そう、だったんだ…)

黙々と食事を進めながらも皆の会話に耳を傾けていた冬樹は、一生懸命弁解しているような雅耶を眺めた。
すると、再び雅耶と目が合った。
「ふーん。じゃあさ、あの子のことは置いといて…久賀の好みってどんなのなんだよ?」
仲間の一人が質問を返す。雅耶は、それに困ったような表情を見せると「俺も、別に好みとかそういうのは特にないかな…」と、笑って言った。
「何だよ。ないなら断らずにあの子と付き合ってみりゃいいじゃないか。それとも、他に誰か好きな奴でもいるのかよ?」
別の一人が口にした時だった。

(………?)

そんな何気ない一言に、雅耶の表情が一瞬曇った。
それはどこか悲しげな色をしていて。
冬樹は一人「ごちそうさま」をしてスプーンをトレーの上に置くと、そんな雅耶の表情をじっ…と眺めていた。

「好きな奴…か。いると言えばいる…かな。ずっと…」
どこか遠い目をする雅耶。
その言葉に、冬樹は心の中で衝撃を受けていた。

(『ずっと…』?)

そんな雅耶の様子に、長瀬は思い出したように口を開いた。
「あ。そっか。雅耶には、ずっと想い続けてる子がいるんだったっけ…」
詳しい事情を知ってる風な長瀬に、皆の視線が集中する。
「雅耶は、初恋の相手をずーっと一途に想ってるんだよ。…なっ?」
長瀬が冷かすでもなく普通に言った。
「まぁ…な…」
雅耶はその言葉を肯定をすると、話し手を長瀬に任せたように押し黙った。
「「…初恋?」」
その言葉に、皆は興味津々に目を光らせた。

(雅耶の…『初恋』の相手…)

冬樹も初めて耳にする話に、大きな瞳を見開いて聞いていた。
「確かー…幼馴染みの女の子…って言ってたっけ?」
確認するように長瀬が問うと、それに頷きながら雅耶が不意にこちらへと視線を向けてきた。
再び、雅耶と目が合う。

(え…?)

冬樹は、思わず我が耳を疑った。


(オサナナジミノ…オンナノコ…?)


冬樹が驚きのまま大きく瞳を見開いていると、雅耶が視線を合わせたまま、再び悲しげな色を見せた。

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