ツインクロス
ある晩のこと。
夜更けの人通りのない薄暗い路地裏に、怪しげな二つの影が揺らめいていた。

「は?データ持ち出したのがあの野崎のガキじゃないって?どういうことだっ?」
一人の男が片方の人物に詰め寄る。
言葉の荒い、その素行の悪そうな男とは対象的に、もう一人の男は落ち着いた様子で静かに口を開いた。
「その言葉の通りですよ。彼にデータを持ち出せる筈がないのです。何故なら彼はずっと、私達組織の監視下に置かれていたからです。あの日以前に、彼があの家に足を運んだことは一度もない。だから誰か別の者の仕業なのですよ。今何処にあるかは別にして…ね」
丁寧な物言いではあるが、その口調は冷たい。
「おいおい、別の…って。それじゃあどうすれば良いんだ?何か心当たりとかはねぇのか?」
「ないから困っているんです。何とかして探し出すしか仕方ありませんね。…まぁ、とりあえず、さり気なく周囲への聞き込みや、野崎の身内関係から探ってみるしかないでしょうね」
落ち着いて淡々と話す相手の言葉に、一方の男は若干イラついた様子で腕を組んだ。
「聞き込みなんてのは、俺の専門外だ。そっちに任せるぜ。何か進展があったら、また連絡くれよ。こっちはこっちでちょっと当たってみるからよ」
そう言うと、男は相手の返事も待たずに、その路地裏から去って行った。

その後ろ姿を見送りながら、残った男は溜息を付くと誰に言うでもなく呟いた。
「…分かっていますよ。貴方が表立って動いたら、いかにも過ぎて怪しまれてしまいますからね…」
そうして小さく鼻で笑うと、男が去って行ったのとは逆方向の闇の中へと消えていった。




キーンコーンカーンコーン…

HRが終わり、生徒達のざわめきが校舎内に響き渡る中、帰り支度をしている雅耶の元へと長瀬がやって来た。
「雅耶ー、今日は用があって俺先輩と帰るからさ、また明日なー」
「おう。またなー」
最近は一緒に帰ると言っても、結局門の所までのことが多いのだが、長瀬は毎回律儀に声を掛けてくれる。
雅耶は荷物を鞄に詰め込むと、窓際の席を何気なく振り返った。
冬樹はまだ席に着いて、教科書等を鞄に詰めているところだった。

(『一緒に帰ろう』と、声を掛けたいところだけど…)

また、唯花が門の前で待っているかも知れないと思うと、下手に誘うことが出来ない雅耶だった。
「…はぁ…」
雅耶は肩を落とすと、小さく溜息を付いた。
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