ツインクロス
「いい加減にしてよ!誰があんた達なんかとっ。眼中無いのよっ!」
「ンだとっ?言わせておけば、いい気になりやがってっ」
近付くにつれて、目の前から穏やかでない会話が聞こえてくる。
(うわ…この子、結構気ィ強いんだな…)
意外な一面を見てしまった感じだ。
(雅耶といる時は、そんな雰囲気ないのに…)
だが、何にしても既に一触即発状態だ。
このまま止めずにいると、事が大きくなりそうな予感がして冬樹が踏み込もうと意を決した時だった。

バチンッ!

彼女の方が4人いる男の内の一人に、ビンタを食らわせた。
「汚い手で触らないでよっ!」
「このアマッ!!」
案の定、男達の怒りはMAXへと到達し、頬を叩かれた男が怒りに任せて手を振り上げた。
「きゃっ…」
彼女は避けようもなく、目をつぶって構えたその時だった。


「………?」
来ると覚悟したはずの痛みが無くて、唯花はそっと目を開けた。
すると、男達の視線は自分ではなく、彼らの後ろに立っている一人の少年に向けられていた。
いや、『少年』とは言っても、男達と同じ制服を着ている高校生なのだが…。

自分に手を上げようと振り上げた男の手は、その後ろの少年に掴まれて、未だその状態を保っていた。他の男達も、割って入って来たその少年に驚いているのか固まっている。

(あれ…この子…。確か久賀くんと一緒にいた…)

見た目、涼しげな顔をしたその少年は、ゆっくりと口を開いた。
「先輩方…注目を浴びてますよ。学校の目の前で揉めた挙句、女の子に手を上げちゃうのは、ちょっとマズイんじゃないですか?」
「お…まえ…」
「1年A組の…野崎…?」
唯花の目から見ても、男達の表情が変わったのは明らかだった。
「…わ…分かったよ。分かったから手…放してくれよ…」
そう小さく言って、まるで少女のような細い手から解放されると。
「…手間、掛けさせたな…」
そう少年に謝ると、その場から立ち去って行った。
去って行く男達の頬が微妙に赤かったのは、多分気のせいだと思いたい、唯花だった。


男達が去っていくのを見送っている、その少年の横顔を唯花はじっ…と見詰めた。
(この子…何者なの?あんなにしつこかった連中を簡単に…。それに、この子…。何だか…キレイ…)
その視線に気付いたのか、少年はこちらを向くと、
「…雅耶ならもうすぐ来ると思うよ」
僅かに表情を和らげてそう言うと「じゃあ…」と、そのまま背を向けて歩き出した。
< 114 / 302 >

この作品をシェア

pagetop