ツインクロス
本当は、違うことを聞こうと思っていた。

昨夜、冬樹が慌てていた理由。
あんなに必死に走って、本当は何かに怯えていたんじゃないのか?
『実は、誰かに追われていたんじゃないか…?』
それらの不安があるから、眠れなかったんじゃないのか?…と。

冬樹が何かを隠しているのは分かる。
だが、それが何なのか…?
本当に大事な所が全然見抜けていない。
それが何より、もどかしかった。

それを自分から話して欲しいと思うのは傲慢だろうか?
何でも話して欲しい。
相談して欲しいと思うのに。

強く問いただせば口を開くのだろうか?
でも…。
先程の怯えたような瞳。
あんな不安そうな顔をされたら、無理に問い詰めることなど出来なかった。
辛い思いをさせたい訳じゃない。
せめて何かの力になれたらいい、と思うのに。

実際は『必要とされていないんだ』という現実が重くのし掛かってきて。
それが、心に(こた)えた。


冬樹は、ともに笑顔を浮かべながらも。
雅耶が言いたかったのは、本当は別のことなのではないかということには薄々気が付いていた。
『冬樹…お前さ、実は…』
そう言った時の雅耶の瞳からは、本気の色が見えたから。

それでも、聞かないでくれるのは…雅耶の優しさなんだろうけれど…。



数日後。

テストは無事終わり、続々と答案が返却される中、講堂へと続く広い廊下には、各学年の総合点1位から200位までの生徒の名前が貼り出されていた。
成蘭高校は、各学年とも生徒数が400人を超えることから、掲示されるのは約半数の生徒のみということになる。一年生は特に初の掲示とあって、楽しみにしている者、端[はな]から諦めている者、反応はさまざまだった。
朝礼がある日の朝からそれは貼り出され、生徒達は教室へ戻る際に皆足を止めて、群がるように眺めていた。
その中には勿論、冬樹達の姿もあった。

「一年生はコッチだってよーっ」

長瀬を先頭に、雅耶、冬樹も続いて人の合間を抜けて行く。
平均的な高さより飛び抜けている雅耶の頭を目印にして、冬樹は何とか後をついて行った。二人が足を止めている場所までやっとのことで辿り着くと、周辺にはクラスメイト達が沢山集まっていた。
「…大丈夫か?冬樹…」
少し埋もれ気味の冬樹を心配して、雅耶が待っててくれる。
「へーき…」
苦笑を浮かべながらもその隣に並ぶと、掲示されているその順位を見上げた。
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