ツインクロス
そうして、そのまた数日後。
あっという間に終業式の日はやって来た。

朝、冬樹が教室に入ると妙にクラスメイト達がそわそわしていることに気付く。
(あー…今日だったっけ。合コン…)
みんな単純だな…と、思いつつも。
最近では、自分の中での気持ちの変化もあり、何だかそういうのも少し羨ましかったりする冬樹だった。
(今日の合コンで、いったいどれだけのカップルが出来るんだろうな…?)
そう思った時、頭の中を雅耶と彼女の姿が過ぎっていって、胸が少しチクリ…と痛んだ。
「………」
その時、教室の後ろの扉からルンルンの長瀬が入って来た。
「おっはよーッス!!」
大きな声で、全体に挨拶をしている。
(…相変わらず、解りやすいな…)
窓際の席から眺めていたら「冬樹チャン、おはよー♪」…と手を振って来たので、軽く手を上げて返す。長瀬の後ろには雅耶もいて、すぐに目が合ったので、同じように手を上げて挨拶を交わした。

(いよいよ夏本番…か…。今日も暑くなりそうだな…)

今朝、この地方でもついに梅雨開け宣言が出されたらしい。
窓際に照りつける日差しは、真夏のそれそのものだ。
冬樹は、入道雲が浮かぶ青い空を見上げながら遠い目をした。

もうすぐ、また…『あの日』がやって来る。
あれから八度目の夏が、始まったのだ。


放課後になると、1年A組の教室からは十数人の大きな集団がぞろぞろと連なって出て来た。
皆どこか足取りは軽く、妙にウキウキしている。
その集団の先頭には、期待一杯で会話が盛り上がっている長瀬。
そして、最後尾には冬樹と雅耶がいた。

「はーい。皆さん、しっかりついて来てねー♪」
昇降口の外へ出ると、長瀬が誘導するように後方を振り返って手を上げている。すっかりガイドのようだ。
「…ホントに解りやすい…」
冬樹が苦笑を浮かべながら呟くと、雅耶がそれを聞いて笑った。
「…確かに。超嬉しそうだよな、あいつ。会場までの誘導は長瀬に任せとけば大丈夫そうだなー」
「駅前のお店って言ったっけ?…ずっと、この集団で歩いて行くのか?」
「うん。まぁ…そうなるかな…」
「ふーん…」

(本当は途中まで雅耶達と一緒に歩いて行こうと思ってたんだけど…)
妙にテンションの高いこの集団は目立っているので、恥ずかしい気もした。
冬樹は意を決すると、雅耶に切り出した。
「オレ、やっぱ先に帰るなっ。皆と一緒に参加する訳じゃないし」
「え…冬樹?駅まで方向は一緒だろ?」
「うん。でも先行くわ。ごめん、またなっ」
そう言うと、集団の横を抜けて駆け出した。
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