ツインクロス
「おいっ冬樹っ…」

後方で雅耶の声が聞こえたが、振り返って手を振りながらも足は止めなかった。
「あれっ?冬樹チャンっ?」
先頭にいた長瀬も冬樹に気付いて声を掛けるが、冬樹は、
「またなっ。長瀬、ガンバレよ」
そう言って手を振ると、そのまま走って追い抜いて行った。
「またねっ冬樹チャン!休み中、海行こうぜーっ。連絡するーっ」
長瀬が後方で大声を上げた。
(いや、海とか絶対有り得ないからっ!!)
心の中で叫びながらも、冬樹は手を振って別れた。

暫く走って長瀬達が見えなくなる道まで入ると、冬樹はやっと足を止めた。
まだ昼過ぎの真夏の日差しが、容赦なく真上から照りつけていて、少し走っただけでもすっかり汗ばんでしまった。
「…はぁ…」
冬樹は小さく溜息を吐くと、そのままゆっくりと歩き出す。

あの集団の中に一緒にいても、何だか突然…疎外感を感じてしまい、辛くなって思わず逃げてきてしまった。
(でも…しょーがないよな。こればっかりは…)
これで、長瀬達にも彼女が出来たりなんかした日には、もっと疎外感や孤独感を味わうことになるんだろうか…?

「………」

冬樹は日差しの眩しさに目を細めると、遠い空を見上げた。


学校の最寄駅の傍まで来ると、周囲に雅耶の彼女…唯花が通っている星女の制服を着た女の子達が多く目に付いた。
(もしかして…合コンの会場がこの辺り…なんてことは無いよな?)
この周辺にはカフェやレストランが幾つかある。その可能性も低くはない。
うっかり出くわすのは嫌なので、駅前の大きな通りより一本裏の道を敢えて選んで入って行く。裏通りからでも駅の改札口の方へと抜けられる道があるのだ。その通りは表通りよりは人通りが少ないが、特別細い道でも暗い道でも無かった。

だから、冬樹は油断していたのだ。
こんな正午過ぎの真昼間に、何も起こる筈が無い…と。

冬樹が一人歩いている後方から、ゆっくりと車が走ってくる。
その車は冬樹のいる少し前でスッ…と止まると、後部座席のドアがゆっくりと開いた。
中からは、一人の男が降りてくる。
それを目の端に捉えつつも冬樹は特に気に留めず、その横を通り過ぎようとした。
すると、その男が不意に冬樹に一歩近付いた。
「すみません、ちょっとお聞きしたいことが…」

「……っ?!」

冬樹は、その男の声を聞いた途端、ビクッ…と反応して一歩後退した。
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