ツインクロス
(この…声は…)
忘れる筈もない。
以前父の書斎で、暗闇の中すぐ間近で聞いた…あの男の声だった。
冬樹の反応に、男はニヤリと嫌な笑みを浮かべると、
「流石にすぐ気付かれちまったみたいだなァ…」
途端に、殺気を隠すことなく表に出した。
「……っ…」
冬樹は危険を感じ、咄嗟にもと来た道を戻って逃げようとした。
「…あらっ?」
唯花は、見覚えのある少年の後ろ姿に動きを止めた。
(あれって…野崎くん…だよね?)
今日の成蘭高校の男の子達との合コン会場になっているレストランの傍で友人達と集まっていた唯花は、不意に冬樹の姿を見つけた。
(今日の合コン…野崎くんも来るのかな?)
だが、お店のある通りとは一本先の道を入っていってしまう。
もしかしたら…場所を間違えているのかも知れない。
そう思った唯花は冬樹に教えてあげる為、後を追い掛けた。
冬樹の曲がった通りに出て、大きく声を掛けようとしたその時。
(えっ?…な…に…?)
十数メートル先で。
ぐったりとした冬樹が一人の男に抱えられ、横付けされた車の中に連れ込まれる所が見えた。
(いったいどうなってるの…?これって…まさか…。誘拐…?)
冬樹を乗せた黒のワゴン車は、ドアが閉まると同時に発車させると、すぐにその場から走り去って行ってしまった。
(大変…知らせなきゃ…。でも、誰に…?…警察…?でも、まだ誘拐と決まった訳じゃ…)
その瞬間、唯花の脳裏には大好きな長身の彼の姿が浮かんだ。
(…久賀くん!そうだ、久賀くんに相談して…)
すぐにスクールバッグからスマホを取り出し、メールを開く。
雅耶のアドレスを開いた所で、唯花はピタリ…と動きを止めた。
(でも…待って。もしも久賀くんに野崎くんのことを知らせたら。きっと、後を追って行ってしまうんじゃ…?)
それは、予感だった。
(嫌…。嫌よっ。今日は、みんなに久賀くんを紹介するんだもの。ずっと…今日を楽しみにしていたのにっ!)
唯花は、スマホをぎゅっ…と、両手に握り締めた。
「ゆいかーっ?何してんのっ?そろそろ時間だよー?」
後方から友人が呼ぶ声が聞こえる。
「う…うんっ!今行くーっ」
唯花はスマホをバッグに仕舞うと、友人達の元へと戻って行った。
「どうしたの?何かあったの?」
聞いて来る友人に、唯花は「…ううん。何でもないっ」と笑うと。
丁度、通りの向こうから、長瀬を先頭に成蘭高校の制服を着た男子の集団が歩いて来るのが見えた。
忘れる筈もない。
以前父の書斎で、暗闇の中すぐ間近で聞いた…あの男の声だった。
冬樹の反応に、男はニヤリと嫌な笑みを浮かべると、
「流石にすぐ気付かれちまったみたいだなァ…」
途端に、殺気を隠すことなく表に出した。
「……っ…」
冬樹は危険を感じ、咄嗟にもと来た道を戻って逃げようとした。
「…あらっ?」
唯花は、見覚えのある少年の後ろ姿に動きを止めた。
(あれって…野崎くん…だよね?)
今日の成蘭高校の男の子達との合コン会場になっているレストランの傍で友人達と集まっていた唯花は、不意に冬樹の姿を見つけた。
(今日の合コン…野崎くんも来るのかな?)
だが、お店のある通りとは一本先の道を入っていってしまう。
もしかしたら…場所を間違えているのかも知れない。
そう思った唯花は冬樹に教えてあげる為、後を追い掛けた。
冬樹の曲がった通りに出て、大きく声を掛けようとしたその時。
(えっ?…な…に…?)
十数メートル先で。
ぐったりとした冬樹が一人の男に抱えられ、横付けされた車の中に連れ込まれる所が見えた。
(いったいどうなってるの…?これって…まさか…。誘拐…?)
冬樹を乗せた黒のワゴン車は、ドアが閉まると同時に発車させると、すぐにその場から走り去って行ってしまった。
(大変…知らせなきゃ…。でも、誰に…?…警察…?でも、まだ誘拐と決まった訳じゃ…)
その瞬間、唯花の脳裏には大好きな長身の彼の姿が浮かんだ。
(…久賀くん!そうだ、久賀くんに相談して…)
すぐにスクールバッグからスマホを取り出し、メールを開く。
雅耶のアドレスを開いた所で、唯花はピタリ…と動きを止めた。
(でも…待って。もしも久賀くんに野崎くんのことを知らせたら。きっと、後を追って行ってしまうんじゃ…?)
それは、予感だった。
(嫌…。嫌よっ。今日は、みんなに久賀くんを紹介するんだもの。ずっと…今日を楽しみにしていたのにっ!)
唯花は、スマホをぎゅっ…と、両手に握り締めた。
「ゆいかーっ?何してんのっ?そろそろ時間だよー?」
後方から友人が呼ぶ声が聞こえる。
「う…うんっ!今行くーっ」
唯花はスマホをバッグに仕舞うと、友人達の元へと戻って行った。
「どうしたの?何かあったの?」
聞いて来る友人に、唯花は「…ううん。何でもないっ」と笑うと。
丁度、通りの向こうから、長瀬を先頭に成蘭高校の制服を着た男子の集団が歩いて来るのが見えた。