ツインクロス
エンカウント
「う…ん…」
冬樹は、うっすらと目を開いた。
未だ朦朧とする頭で、ゆっくりと視線だけ動かして周囲を見渡す。

(何でオレ…眠っていたんだ…?此処は、いったい…)

何処だか分からない薄暗い場所。
冷たいコンクリート上に横になっていた自分。
その普通でない状況にハッ…として、すぐに起き上がろうとするが、それは叶わなかった。
後ろ手に紐のような物で、両手を縛られていたからだ。
徐々に意識がハッキリしてくる。
(そうだ…。オレ……)
突然目の前に現れたあの『声の男』に。

まさか、あんな所で会うとは思ってもみなかった。
実際、声しか知らない以上警戒しようもなかったのは事実だが、まさかあんな街中…それも真昼間に堂々と現れるとは思わなかった。
(目の前に車が止まった時点で、もっと警戒するべきだった。まだまだオレも甘いな…)
危険を察知して逃げようとした所を咄嗟に掴まれ、薬か何かを嗅がされてしまったのだ。
(情けない…。結局、捕まっちゃったって事か…)
冬樹は小さく溜め息を吐くと、今度は冷静に周囲を確認した。

そこは倉庫のようだった。
広く高い天井。周囲には、何らかの荷物が入った大きな箱が山積みされている。薄暗さと冷たい空気、そして静けさから察するに、きっと周囲に人は居ないだろうと判断する。
(わざわざ人の目に付くような場所に連れて来る筈無いもんな…)
冬樹は、とりあえず起き上がろうと横たわっていた身体を仰向けにした。後ろ手に縛られた腕が傷んだが、幸い足は縛られていなかった為、勢いをつけて起き上がる。
「…ってぇ…」
制服は半袖の為、袖のない部分…特に肘辺りをコンクリートの床に強く擦ってしまった。きっと、赤くなっているだろう…と憂鬱に思いながらも、まだそれ以外に傷がない事は不幸中の幸いだと考える。
(鞄は…どうしたんだろう…。奴らが持ってるのか?あの場所に置き去りなんてことは…)
そう考えて、そんないかにも足が付きやすくなるような真似はしないだろうな…と、思い直す。
周囲の気配を探りながら、ゆっくりと立ち上がる。

「…っ……」

嗅がされた薬のせいだろうか、立ち上がると頭がクラクラした。
だが、眩暈に耐えてゆっくりと周囲を見渡す。
今この倉庫の中には、あの男は勿論、見張りさえも特には付いていないようだった。
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