ツインクロス
「お前にしか開けられないあの扉を、お前自身が知らなかったなんてシャレにもならねェんだよっ」
「…オレ…しか…開けられない…?どういう、意味…?」
「とぼけるんじゃねェよ。あの部屋の隠し扉なァ、良く調べたら、お前の静脈認証で開く仕掛けになってたらしいじゃねェか。ここまで調べがついてるのに、まだ言い逃れする気かァ?ええっ?」
顎を無理やり掴まれ、煙草臭い男の顔が近付いて来る。
だが、その嫌悪感よりも。
男が言っている言葉の意味が解らず、冬樹はただただ大きな瞳を見開いていた。
「静脈…認証…?」
「とぼけるなよ。お前のその手をかざさねェと開くハズがねェんだよっ。…ったく、めんどくせェ仕掛け作りやがって」
掴まれている顎に力を込められ、冬樹は痛みに顔を歪ませた。

(そんなの…知らないっ…。そんな…どういうことだ…?)

冬樹は訳が分からず、頭の中は混乱していた。
だが、次の言葉を聞いた瞬間、凍りついた。
「あの後、俺ァお前の親父が隠していた手記を見つけたんだ。それにはしっかり書いてやがったぜ?『長男・冬樹に鍵を託す』ってなァ。ある意味、証拠は揃ってんだ。…いい加減観念するんだなっ」

「……っ!?」

『長男・冬樹に鍵を託す』…?



『長男・冬樹』

 

(ソレハ オレジャ ナイ…)



それは、オレじゃない…。
オレでは、その扉を開くことなど出来ない。
いや…開くことが出来る人物など、もう存在しないということだ。
『長男・冬樹』は、もういないのだから。

(でも…じゃあ、いったい誰が…?)

考えても考えても、出る筈のない答え。
冬樹は頭が真っ白になった。

固まって大人しくなってしまった冬樹を、事実を認めたと思ったのか、男は掴んでいた手を離すと立ち上がった。そして、ずっと扉近くに立っていたスーツ姿の男を振り返って言った。
「これで、あのパスもコイツを使って認証を解いて、開くことが出来りゃあ、なんも問題ねェんだろっ?」
「『開くことが出来れば』ですけどね…。勝手にこんな派手に行動しておいて、もしも貴方の言うことに間違いがあったとしたら、その時は…。解っていますよね?」
淡々とした様子で答えるその男に「チッ」…と、舌打ちをすると、冬樹を押さえ付けているチンピラ男に声を掛けた。
「おい、アレの準備をするぞ」

『アレの準備をする』

男がそう指示するや否や、後ろにいたチンピラ男はどこからか出した布のような物で、すぐに冬樹の目隠しをしてきた。そして、縛られた腕を掴んで無理やり立たせると、何処かへとゆっくり移動を始める。
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