ツインクロス
大倉は「チッ」…と舌打ちをすると、
「お前みたいなのが、サツの訳ねェな。…さては、さっきの警備員の仲間か?」
そう言うや否や、懐から何かを取り出す素振りをした。
「…っ…?」
咄嗟に冬樹もその動きに警戒をする。
だが、瞬時に前にいる人物が動く気配がしたかと思うと、隣にいた大倉の呻く声がして、カラン…という、金属音が聞こえた。それは、刃物がコンクリートの地面に落ちた音だった。
「…テメェッ!ナメた真似しやがってっ」
逆上した大倉が、冬樹から離れて相手に掴み掛かっていく。

二人が揉み合いになっているのか。
僅かに呻き声や殴り合うような衣擦れの音が聞こえていたが、それもすぐに終わった。ドサッ…と、人が地に倒れ込む様な音がして、周囲は途端に静かになる。

(いったい、どうなったんだ…?…どっちが…?)

不安で固まっている冬樹に、ゆっくりと人が近付いて来る気配がする。
「……っ…」
見えないながらも、冬樹はその目の前に立つ人物を見上げた。
すると…。

「怖い思いをしたね…。でも、もう大丈夫だよ」
そう優しい声がすると、ふわり…と頭を優しく撫でられた。


(え…っ?)


その感覚に。
不思議な既視感を覚えた冬樹は、目隠しの下で大きく瞳を見開いていた。
遠くでパトカーのサイレンが鳴り響いていた。

「紐…解いてあげる…。可哀想に…痛かっただろ…?」
男はそう言うと、冬樹の後ろにしゃがみ込んで縛られている手首の紐をそっと解きに掛かってくれる。
「あ…ありがとう…」

その間にも、パトカーのサイレンが徐々に大きく聞こえて来て、こちらへ近付いて来ているのが分かった。
「よし、外れた…」
その男が小さく呟くと。
冬樹は自由になったその手で、自分の目隠しを外そうと手を動かした。だが、その一瞬の間に「…またね」…と、優しげなその男の声が小さく聞こえたかと思うと。
「…あっ。待っ…て…」
眩しさに目を細めながらも慌てて後ろを振り返った冬樹の視界には、既にその人影は何処にも見当たらなかった。

その後、警察がすぐに到着して、大倉をはじめとした三人は身柄を拘束された。冬樹自身も警察に事情を聴かれ、その後警察署の方にも一緒に行くことになった。それらの一通りの説明を受けた後。

「冬樹っ!」
パトカーに後続して来た車から、雅耶が駆け降りて来た。


「雅耶…?」

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