ツインクロス
放置されているそのノートの一冊を冬樹は手に取った。それは父の手記で、研究で気になったことや思った事を書き留めている、ある意味日記のような物であるらしかった。
「………」
冬樹は、丁寧にパラパラとページをめくっていく。
かなり厚みのあるノートではあるが、半分もいかない所で書き込みは終わっていた。一番最後の書き込みを見てみても、特に気になることは書かれていない。
(手掛かりになるようなことは、特にないか…)
冬樹は小さく息を吐くと、残りのページをざっとめくった。
すると…。

(あれ…?今…)

白紙のページが続く中、途中に何か書き込みがしてある場所を見付けた。
冬樹は、もう一度今度は慎重にページをめくっていく。

(あった。これだ…)

それは、他のページに記入されていた几帳面に並ぶ父の文字列とは違い、何処か雑な…走り書きの様な書き方をされていた。
だが、冬樹はそこに書いてある父の言葉に目を奔らせると、大きく瞳を見開いた。



『冬樹
 今、これをお前が目にしているということは
 私は何らかの形で すでに…
 お前達の傍には いないのだろう。
 偶然お前がこの部屋の秘密を知ったことで
 父の罪までも 重くのし掛からせてしまうことを
 どうか許して欲しい。

 小さいながらに、この父のことを
 気に掛けてくれていた、心優しい息子 冬樹。
 父は とても幸せ者だよ。

 お前は、すでに立派な『男』だ。
 父の代わりに、夏樹やお母さんを頼むな。

 父さんは いつでも、お前達を見守っているよ』



「こ…れ…」
冬樹は愕然とした。
それは、生前に父が兄『冬樹』に宛てて残した、メッセージだった。
「…なんで…?こんな…」
驚きの余り、ノートを持つ手が震える。
「…どういう、こと…?」
まるで、死を予感していたかのような、父の言葉。
(『罪』って何のこと…?)
それが、アイツらの言ってたデータと関係があるのだろうか?
(それを…ふゆちゃんは、知っていたの?)
だから、この扉の鍵は『冬樹』の認証で開くようになっていたのか?

この手記を見る限りでは、やはり『冬樹』が父に、その『何か』を託されているようにも受け取れる。
だが…。
(それなら、何でこの扉が開いているの?ふゆちゃんしか開けられない筈の扉が、何で…?)

衝撃と、悲しみと、混乱…それぞれが()()ぜになって…。
冬樹の頬を、ただ涙が伝い落ちていった。

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