ツインクロス
雅耶の優しさに、じんわりと胸が温かくなって。
冬樹は俯きながらも、小さく「ありがとう」と言い直すと。
雅耶は笑って「どういたしまして」と頷いた。
そして雅耶は、ソファの後ろから冬樹の正面側へとゆっくり回り込むと、さり気なく目の前の床に座った。
「水分取った方が良いよ。熱中症になっちゃうぞ」
冬樹が受け取ったまま手にしているペットボトルを指差して言った。
「あ…うん…。いただきます」

(オレが気まずそうにしているのに気付いて、場を和ませてくれたんだな…)

雅耶のそういう、さり気ない気遣いには本当に頭が下がる。
冬樹は、貰ったスポーツドリンクを一口飲んでみると、思いのほか喉が渇いていたのか、体内に浸み込んでいく感じがした。

そうしてお互いに一息付いた頃、雅耶が口を開いた。
「何にしても、お前が無事で良かったよ。俺…心配してたんだぜ?メールしても電話しても全然、お前と連絡取れないし…」
「あ…ゴメン。オレ、携帯…バッグに入れっぱなしだったんだ…」
連絡をくれると言ってたことを、すっかり忘れていた。
結構な時間、あの部屋に籠っていたことに今更気付く。
「でも、この家の窓が開いてるのに気付いてさ。もしかしたら、お前が来てるんじゃないかって思って来てみたんだ」
「…そっか…」
俯いて保冷剤で目元を冷やしている冬樹を見詰めながら、雅耶は続けた。
「でもさ…こないだあんな事があったのに、一人で来たら危ないだろ?また、泥棒か何かと鉢合せたらどうするんだよ?」
そんな心配げな雅耶の言葉に。
「ああ…でもアイツはもう捕まったし、大丈夫かなって思っ…」
冬樹は、そこまで言い掛けてハッ…とした。
だが、瞬時に雅耶が目を光らせて食いついてきた。

「やっぱりっ!前にこの家でお前を襲った奴は、あの大倉って奴だったんだなっ?」
「う…」

(…ヤバイ。誤魔化したことがバレる…)

敢えて『ただの空き巣』…としていたことが、バレてしまう。
内心で焦る冬樹に、追い打ちを掛けるように雅耶は続けた。
「それなら、あの時もそうだったんじゃないのか?俺がお前のバイト帰りにお土産持ってった時…。お前、あの時…誰かに追われてたろ?アイツにつけられてたんじゃないのか?」
妙に鋭い雅耶の指摘に。
冬樹は何も言えず、焦りながらも上目遣いにそっと雅耶の表情を伺うと。
腕を組んで真面目な顔をして、こちらを見ている雅耶と目が合った。
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