ツインクロス
本当は、冬樹を責めるつもりなんか無かった。

でも、実際に冬樹が昨日みたいに危険なことに巻き込まれているのに、そんな状況を自分はただ『知らなかった』で終わりたくはなくて。
だけど、それを無理矢理問い詰め、聞き出しても意味が無いことも分かっていた。
(結局、必要とされてないってことなんだよな…)
じっ…と冬樹の目を真っ直ぐに見詰めて、雅耶は返事を待っていた。
だが、冬樹は大きな瞳を揺らして、ずっと何かを迷っているようだった。

暫く待って、雅耶は諦めたように瞳を伏せて小さく息を吐くと、ふ…っと笑った。
「まぁいいか…。直純先生の所に行けば、何か新しい情報が入ってるかもな?…そろそろ行くか?」
その気まずくなってしまった雰囲気を断ち切るように、努めて明るく言った。



(雅耶…)

冬樹は迷っていた。
口を開けば、何処かでまた嘘を付かなくてはならなくなる。
嘘に嘘を塗り固めて。
言えない『秘密』をひた隠しにして。

オレは、そうしてまた…お前に嘘を付いて。
そして、後々それを知ったお前を…また傷付けることになるんだろうか。

(本当は、雅耶にもう…隠し事なんかしたくない…)

全部話せたら、どんなに楽だろう…と思う。
冬樹のことも、夏樹のことも全部、包み隠さず…。

(でも、言える訳がない…)

今更言えない。
この…今の関係が壊れてしまうのが怖くて。
雅耶の親友である『冬樹』の殻を被っている、所詮偽りの関係であっても…。

(真実を知ったら雅耶は、きっと軽蔑するだろうな…)

今迄、平然と『冬樹』を装い、騙し続けてきた自分のことを。

『冬樹』を信用して、こんなにも心配してくれてる雅耶を…オレは裏切っているのだ。


だが、そんな胸中の想いとは裏腹に。
冬樹はしっかりと雅耶を見据えると、静かに口を開いた。
「データだよ…」
「……えっ?」
「父さんの何らかのデータを探してるみたいなんだ。アイツらはそれをオレが持ってると思っているみたいだった」
「データ…?」

冬樹は事の経緯を簡単に話し始めた。
『嘘』をつくことなく、話せる部分だけを。

こうして真剣に向き合ってくれてる雅耶を傷付けない為にも…。
オレは『冬樹』であることを迷っていてはいけないんだ。


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