ツインクロス
「こらっ。もう、いい加減笑うのお・わ・りっ」
いつまでもクスクス笑ってる冬樹に、雅耶は苦笑しながらも言い聞かせるように指を差して言った。
「…だって…、思い出したんだ。お前のふてくされ方…昔と変わんないなって思ってさ」

昔三人で遊んでいた頃、冬樹と夏樹は基本的に考え方も良く似ていたので、雅耶だけ二人と意見が分かれてしまうことがよくあった。
そんな時に、よく雅耶が先程のように拗ねていたのだ。
それでも、すぐに三人で笑い合って元通りになるのだが…。

やっと笑いを収めた冬樹が、呼吸を整えるように小さく息を吐くと「…懐かしいよ」と言った。
「そりゃあね…。見てくれはデカくなっても、中身は変わらないって親にもよく言われてるけどさ。お前だってそういう部分、少しはあるだろ?」
照れ隠しも含んだような、そんな何気ない雅耶の言葉に、冬樹は一瞬動きを止めた。
それは、雅耶には気付かせない程に一瞬の出来事であったが。
「どうかな…?…よく、分からないや…」

(今のオレは…ふゆちゃんとは違うし、きっと…夏樹とも違う…)
きっと、『変わらない部分』なんか見つからないだろう。
冬樹は、曖昧に笑うと視線を他所へと流して、話しを切り替えるように言った。

「それよりさ、そろそろ直純先生のトコ行ってみないか?」



(冬樹には、まだ…昔の話とかは禁句なのかもな…)

雅耶は、窓を閉めて回りながら考えていた。
(自分で『懐かしい』…とか言う癖に、まだあんな辛そうな顔を見せるんだもんな…)
『どうかな…?…よく、分からないや…』
そう言った時の冬樹の顔を思い出して、雅耶は小さく溜息を吐いた。

一階の全て開け放てられている窓を、二人で分担して閉めて回っていた。
こんな所まで開けなくてもいいのに…と、いうような高い場所の小さな窓さえも徹底的に開けて回ったようで、雅耶は必死に背伸びして開けたであろうその冬樹の姿を想像して、僅かに口元に笑みを浮かべながら、それを閉めて施錠した。
一通り戸締りをしてリビングに戻って来ると、冬樹が壁に掛けてある額縁の前で佇んでいた。
その横顔はどこか儚く、淋し気だった。

(あ…れ…?)

不意に、その姿がいつかの情景と重なる。
以前…よく、そうしてその絵を眺めていた人物の横顔とダブって見えたのだ。

(なつ…き…?)

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