ツインクロス
午後のうだるような暑さの中、野崎家を後にした雅耶と冬樹は『ROCO』に向かって歩いていた。
つい話し込んでいて忘れてしまっていたが、二人とも昼食を食べていないことに気付き、とりあえず何処かで一緒にご飯を食べようという話になった。だが、行き先に迷った挙句、駅前まで足を運ぶのならそのまま『ROCO』に行ってしまおうということで、意見が一致したのだった。

目元は少し冷やしたものの、泣き腫らした目に真夏の日差しは眩しすぎて、冬樹は歩きながら目を細めた。
(目がショボショボする。泣き過ぎだろ…)
普段は大きく目を見開いている冬樹が妙に細目になっているのを見て、雅耶が苦笑しながら「…大丈夫か?」と、声を掛けて来た。
「…ああ。でも、このままお店行ったら直純先生には何か言われそうだよな…」
冬樹が、げんなりしながら言った。
「あははっ…確かに。先生にはバレバレかもなー」
そんなことを話しながら駅方面へと向かい、住宅街を抜けて行く。

そうして、暫く無言で歩いていた二人だったが、何かを考え込んでいたらしい冬樹が不意に口を開いた。
「なぁ…雅耶…」
「ん?」
「昨日、オレがあいつらに捕まっている間に、オレの携帯から雅耶にメールが届いたって言ってただろ?」
「ああ…居場所を教えてくれたヤツな…」

昨日話した感じでは、もしかしたら例の二人組の内の一人…外にいた若い方の男が、車に置きっぱなしだった冬樹の携帯を使ってメールしたんじゃないかということだったが…。

「うん…。でもさ…何で『雅耶に』連絡…したんだと思う?」
「え?そりゃあ…。オレが何度も電話掛けてたから…じゃないか?」
「うん…。でも、履歴見たら直純先生も結構掛けてきていたし、他にあのメール送信される少し前に、長瀬からメール入ってたりもしてたんだ…」

『長瀬からのメール』…と聞いて、その内容が気にならなくもなかったが、とりあえず雅耶は「…そうなんだ?」と言葉を返した。

「オレと雅耶って、あんまりメールしないだろ?」
「うん。…まぁ…」
(すぐ、電話しちゃうからな。俺が…)
「だから、オレの携帯から雅耶にメールしようと思ったら、電話帳から雅耶のアドレスをわざわざ探さないといけないんだ」
「あ…確かに。そうなるよな…」

それは…。
メールを打った人物は、わざわざ雅耶を選んで連絡を入れて来た…と、いうことに繋がるのだ。
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