ツインクロス
(みんな遅いな…。更衣室、混んでるのかな?)
暫く立ったままで海を眺めていたが、皆がなかなか戻って来ないので、冬樹はシートの端にちょこんと座ると、そのまま膝を抱えて佇んでいた。

ザアザアと波打つ音は耳に心地良いけれど、一人でいると、ついつい色々な事を考えてしまい、何だか憂鬱になる。
冬樹は、自分の膝に顎を乗せると小さく溜息を吐いた。
あの事件の真相は、大倉が亡くなってしまったことで何も進展はなかった。大倉の子分的存在だったチンピラ男は、特に詳しい情報を持ってはおらず、ただその場その場で大倉の指示を受けて動いていただけだったようだ。そして、製薬会社の社員の男は、未だ黙秘を続けているらしい。

だが、自分がさらわれた経緯なんかは、もうどうでもいいと冬樹は思い始めていた。そこには、父の書き残していた『罪』が関係していることだけは分かっているから。そして、自分には、そこの部分を紐解くことが出来ないということも。
だから、それよりも…。
今は、自分を助けてくれた、あの二人に関する情報が欲しい。

(あの人達は、何の為にあんな危険を冒してまで乗り込んで来たんだろう?)

あいつらを警察に引き渡す為?
父との繋がりは…?
父の『罪』について何か、知っているのだろうか…?

(それに、どうしても…)

『またね』…と言った、あの人のことが頭から離れないのだ。

冬樹は再び、小さく溜息を吐いた。


物思いにふけっていると、目の前に数人の影が差した。
皆が戻って来たのかと思い、冬樹が顔を上げると。そこには見知らぬ男達が三人立っていて、自分を見下ろしていた。
ニヤニヤとした値踏みするような彼らの視線に、嫌な予感しかしない。

「かーのじょ♪可愛いね。俺達と一緒に遊ばない?」
「こんな所で一人で荷物番なんて寂しいじゃん。向こうで一緒にお茶でもどう?」
「かき氷でも奢っちゃうよー♪」

「………」
冬樹は、真顔で彼らを見上げていた。
自分は『男』だ…と、わざわざ言うのも何だか面倒くさい気がした。
(『彼女』か…。間違いではないんだけどな…)
この格好でそう見えてしまうのは、ある意味問題かも知れない。
(…もっと、男らしい格好しないと駄目ってことか?)

冬樹が、頭の中であれこれ考えていると、相手が痺れを切らして行動に出た。
「もしかして、驚いて固まっちゃってるの?可愛いねー。怖くないから、ついておいでよっ」
そう言って冬樹の腕に手を伸ばして来た。
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