ツインクロス
「この海は、ずっと繋がってる。どこまでも、どこまでも…。だから、この海には…。この先には、父さん達が眠っているんだ…」
目を細めて遠くを見詰める冬樹の、その言葉に。
「……っ…」
雅耶は衝撃が走った。
「オレは、ずっと…。向き合うのが怖かったんだ、あの事故のこと…。その事実に正面から向き合うことが出来なくて…。ずっと…認められなくて…。…逃げていたんだ」
「…冬樹…」



何度も、何度も、夢に見る。

オレは、みんなを探して広い広い海に、ひとり浮かんでいて。
『ふゆちゃーんッ』『おとうさんっ』『おかあさーんっ』
呼んでも呼んでも、ザアザアと水の音しかしなくて。
悲しくて、泣き叫んでも、誰もいない。

だけど、ふと…。
足を引かれるのに気付いて、下を覗き込むと。

『たすけて』『助けて…』『なつきー…』

お父さん、お母さん、そしてふゆちゃんが自分の足に掴まっていて…。

『苦しいよ…』『助けてよ』『なっちゃんーっ』

あの頃のままの、小さなふゆちゃんの手が伸びてくる。

『何で、ぼくが?』『何でなっちゃんだけ?』
『みんな、お前のせいだ』『お前の…』

そうして、引き摺り込まれる海の中は真っ暗で。苦しくて…。
咄嗟に、その手から逃れて浮上しようと藻掻くのだ。


そして、目が覚める。
でも、目が覚めた後、後悔だけが襲うのだ。
…自分の狡さに。

本当は、一緒に沈むのなら本望だと思っているのに。
思っているつもりでいるのに…。
どこかで、自分はやっぱり助かりたいと思っているのだろうか?…と。

それに、本物のふゆちゃんなら…。
あんなことになった今でも、自分を責めないでいてくれそうで。

ふゆちゃんのことを見くびっている…という罪悪感と。
実は、それさえも自分の都合のいい解釈なのかも知れないという、己への嫌悪感で一杯になった。



無言で海を眺めている冬樹の横顔が、苦痛に歪む。
冬樹が、まさかそんな理由で海に来たくなかったなんて思わなかった雅耶は、後悔の念に駆られた。
(俺は、馬鹿だ。…無神経だった…)
冬樹のことを理解したいと思っているのに、全然その想いを()んであげられていない。

冬樹…。
お前は、その小さな背に…。
いったい、どれだけのものを背負って生きて来たんだろうな…。

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