ツインクロス
「………」

冬樹は雅耶の言葉に驚き、瞳を見開いて呆然と佇んでいた。
お互いに視線を絡ませながら立ち尽くしている二人の間を、一陣の風が通り抜けて行く。
(夏樹がダブって見えるって…。どういう、意味…?もしかして…バレた、のか…?)
冬樹は、雅耶の真意を計り兼ねていた。
ただ…やたらと自身の心音が、ドクドク大きく脈打っていくのを感じていた。



「お前と一緒にいて…最近、すごく夏樹のことを思い出すことが多いんだ…。実際、お前達は本当によく似てるんだなぁって、今更ながらに思い知らされてる感じがするよ。…お前はお前…なのに、可笑しなこと言ってごめんな?」
何も言えずに固まっている冬樹を見て、雅耶は表情を緩めると取り繕うように言った。
「夏樹に会いたいって…。そう思ってる願望からだったりするのかもな…?」
そう言うと、冬樹が一瞬泣きそうな顔になった。

最近、冬樹が夏樹に見えてしまう…。それは本音だった。
どうして、そんな風に感じるのか自分でも分からない。
確かに夏樹が生きていてくれたら…、此処にいてくれたら…と思っているのは確かだ。
だが、それは俺なんかより冬樹自身が一番感じていることに違いなくて。
(それなのに、俺はまた…無神経なことを口走って…。そんなことを言ったって、冬樹を傷付けるだけなのにな…)
後悔の念に駆られている雅耶に、冬樹が小さく呟いた。

「オレ達双子って…そんなに似てた?」

「…え?」
「昔から…そんなに似てたかな?オレ達、よく…入れ替わったりして…雅耶のことも、からかったりしてただろ?」
何故だか悲しげにそう呟く冬樹から目を離せず、狼狽えながらも雅耶は言った。
「あ…ああ。そうだな…。俺は何だかんだといっつも騙されてた方だから、あんまり見分けは付いてなかったとは思うんだけど…」
「………」
「…でも、お互いを演じられちゃうと、ちょっと判らなかったけど、素での二人なら俺は見分けられたぜ?…完璧…とは言えないけどなっ」
そう言って笑う雅耶に、冬樹は目を見開いた。



「…見分け…られた?」
「?…ああ。特に夏樹は、分かりやすかったしな」

そんな、ある意味失礼なことを言う雅耶の言葉が、何故だか無性に嬉しくて。
思わず、冬樹は泣きそうになった。

冬樹を演じている自分の中の『夏樹』に気付いてくれていることが嬉しいなんて…。
本当は、喜んでいたらいけないことなのに。

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