ツインクロス
雅耶は自分の足が届く安全な場所まで来ると、一旦立ち止まって大きく息を吐いた。
「ふぅ…。何とかなった…な…」
ハッキリ言って、生きた心地がしなかった。
(でも、無事に冬樹を助け出せて良かった…)
気を失っているのか、目を閉じたまま波に揺られている冬樹を見下ろす。

雅耶は冬樹の身体をしっかりと抱えながらも、浮力を利用しながらゆっくりと海に浮かべて歩いて行く。
すると、
「――…」
冬樹が何かを呟くのが聞こえた。
「冬樹…?気が付いたのか?…大丈夫か?」
雅耶は、そっと声を掛ける。
「…ちゃ…ん…」
「……え?」
冬樹は意識が朦朧としているのか、うわ言のように何かを呟いているだけのようだった。
だが、次の瞬間。

「…ごめ……。…ふゆ…ちゃ……」

(…え…?)

冬樹の声に耳を傾けていた雅耶は、思わぬ呟きに耳を疑った。
もう一度よく聞き取ろうと耳を近付けるが、冬樹はそれ以上何も言わなかった。
「………」
驚きの表情で腕の中の冬樹の顔を見詰める雅耶。
呆然としている雅耶の耳に、打ち寄せる波の音が妙に大きく感じた。




深い、深い海の中…。
もう、ダメだと思った。

ああ…。このまま、みんなと同じところに行くのかな…?
ふゆちゃんが、待っててくれる…のかな…?

そう思って。
それなら、苦しいけど良いかな…なんて、思っていた。

だけど…。


『…冬樹っ!!』


雅耶の声が、何処からか聞こえてきた…ような気がした。
(まさや…?)
僅かに残った意識の中で薄く目を開けると。
雅耶が真剣な顔をして、こちらに向かって泳いで来るのが見えた。

(…雅耶…)

雅耶は、いつもオレがピンチになると駆けつけてくれるんだね…。

オレは嬉しくて。
重く、だるい腕を必死に…雅耶の方へと伸ばした。

雅耶の大きな手に掴まれて。
腕を引かれながら身体が浮上して行くのを感じて…。
微かに見えた海の底の方に。
ふゆちゃんの幻が見えた気がした。

ごめんね、ふゆちゃん…。
ごめんなさい…。

やっぱり、オレはまた…ふゆちゃんの傍へ行けずに、ひとり助かってしまうんだね。


『…ごめんね。ふゆちゃん…』


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