ツインクロス
(なん…だろ…。あたたか…い…?)

今まで冷たかったのが、急に温かなものに包まれる感覚がして、冬樹の意識は急激に浮上していく。
「……ん…」
目を開けると、雅耶の顔がすぐ傍に見えた。

(あ…れ?オレ、どうして…。…っていうか!この状況ってっ…)

気が付けば、またもや雅耶に横抱きに抱えられていた。それも雅耶は今、水着姿で…。いわゆる上半身は裸の状態だ。自分が服を着てるとはいえ、温かいと感じたのは雅耶の体温を直にそのまま感じていた訳で…。
意識した途端、カーッ…と頬に熱が溜まって行くのが自分でも分かる。

「……あっ…。ごっ…ごめんっ。オレっ…」

途端に慌てて降りようとするが、思いのほかガッシリと抱えられていて、その腕はびくともしなかった。
「…気が付いたのか…。良かった…」
雅耶は冬樹を抱きかかえたまま、幾分ホッとした様子を見せている。
だが…。

(………?)

冬樹は、雅耶の様子が何故だかいつもと少し違うような気がしていた。
いつもの雅耶なら、あの人懐っこい笑顔を見せてくれる所だろう。
だが、今…目の前にいる雅耶はどこか大人びた表情をしていて。
ただ、じっ…と、自分を見下ろしているのだ。

(まさ…や…?)

抱きかかえられたまま、近いところで視線を合わせているこの恥ずかしい状況に。
冬樹は、降ろして欲しい…と思いつつも上手く言葉が出て来なかった。
その腕から強引に飛び降りることは勿論、身動きを取ることさえも出来ずに固まってしまう。

「………」

対応に迷い、瞳を揺らす冬樹に。
雅耶は、やっと僅かに笑顔を見せると冬樹をそっと降ろした。

「あ…あり、がと…」

足元に波が打ち寄せる。
長い間、気を失っていた訳ではないらしく、海から上がって来た二人を待ち構えていた母子が謝罪と礼を口にしながら近寄って来た。
子どもを助けに行って自分が溺れるという…ある意味失態をさらしてしまった冬樹は、どんなに感謝の言葉を伝えられようとも恥ずかしさだけが募っていくのだった。




「…すっかり時間食っちゃったな。長瀬達…もう戻ってるよな?」
冬樹は、僅かに肩を落としながら言った。
「別に気にすることないだろ?あいつらだってまだ遊んでるって」
二人、波打ち際をゆっくりと歩きながら、元いた浜辺の方へと向かって歩いていた。
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