ツインクロス
雅耶は、ずっと考えていた。
冬樹が呟いた、あの言葉を。

『…ごめ……。…ふゆ…ちゃ……』

俺の聞き違いでなければ、『ごめんね、ふゆちゃん』…と、冬樹は言った筈だ…と思う。
そこで思うのは、当然『何故…?』…という疑問だった。
『ふゆちゃん』とは、冬樹のことだった筈だ。
夏樹が昔、冬樹のことをいつも『ふゆちゃん』と呼んでいたのだから。あとは、時々だが冬樹の母親がそう呼んでいるのを聞いたことがある位だろうか。
それを、いくら朦朧としていたとはいえ、冬樹自身が『ふゆちゃん』…と、口にするのは、どうしたって違和感がある。
冬樹は、小さな頃から夏樹に『ふゆちゃん』と呼ばれていても、自分で自分のことを話す時に『ふゆちゃん』…という言葉を使ったことはなかった。
ならば…?

(いったい、どういうことだ…?)

『…ごめ……。…ふゆ…ちゃ……』
冬樹が口にしたあの言葉は、誰に対して言ったものなのだろうか?
あの状況で…。朦朧(もうろう)としながら…?

(分からない…)

いや、解らないというよりは、認めたくない…と言った方が正しいのかも知れない。
本当は、答えは出ているのではないか…?


雅耶は自問自答を繰り返す。


俺が最近、ずっと気になっていたこと。

『お前と夏樹が…、すごくダブって見えるんだ…』
先程、冬樹にも話したことだ。

再会して初めの頃は、冬樹は無口で無愛想で、とにかくいつも無表情で。警戒心が強く、話し掛けても会話にならない状態だった。その変わってしまった部分は、八年間の生活の変化によるものだと思っていた。
だが、打ち解けた後、あいつは少しずつ素を出せるようになっていって。最近では、以前の冬樹を取り戻してきている…そう、思って見ていた。

だが…。
いつからか、俺はそんな冬樹を夏樹と重ねて見ていることに気が付いた。
いつだったか、唯花と冬樹のことについて話していた時のことだ。

『困っている人がいると後先考えず動いちゃうタイプでさ。逆にそれであいつの方が危ない目に遭ったりして、いつも俺達が…』

そこまで言い掛けて、自分の思考に戸惑った。
違う…と。
困っている人を見て後先考えず行動してしまうのは、冬樹ではなく、夏樹の方だったのだ。そんな夏樹をいつだって俺と冬樹とで追い掛けて、フォローしていたのだから…。
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