ツインクロス
よくよく考えてみると、あいつと再会してから何度かそういう場面に出くわしている気がする。
西田という上級生の件も然り。絡まれていた唯花を助けたという件も然り…だ。

(さっきのだって、そうだ…)

自分では、海が怖いと…あんなに辛そうに話していたのに。
実際、流されている子どもを見たら、反射的に走り出していたに違いない。

(でも、それだけでは…)

心の中で、どうしても否定したい自分がいる。
以前もそんな冬樹を見ていて『まるで夏樹のようだ』と思いながらも、冬樹自身のポジションが変わったことで、本来の冬樹の本質が出て来ただけかも知れない…と、思うことにしたのだ。
だが…。

(本当は、自分でも気付いているのかも知れない…)

改めて考えてみれば、俺の中で思うところは沢山ある。

『…ごめ……。…ふゆ…ちゃ……』

あの言葉は…。
どう考えたって『夏樹が口にする言葉』として考える方が自然だ。
ただ、認められないのは…。俺が確信を持てないのは。
もしも、お前が冬樹でなく…本当は夏樹だったというのなら…。

お前は、いつから冬樹でいたんだ?…という疑問だ。
八年という長い月日を、ずっと…?

いったいそれは、何故…?


そこまで考えて、雅耶はハッ…とした。
己の意識に沈んでいたことに気が付いて、後ろを付いて来ているであろう冬樹を慌てて振り返る。
歩幅に差があるからだろうか、冬樹は随分と後方を歩いていた。立ち止まって振り返っている自分にも気付かない様子で、海を眺めながら、ゆっくりと歩いて来る。
冬樹自身も何か、物思いにふけっている様子だった。

雅耶はその場に立ち止まると、そのまま冬樹が追い付いて来るのを待った。
仲間達が待つ場所へも此処からならもうすぐだ。
すると、途中で冬樹も我に返ったのか、待っている雅耶を見るや否や申し訳なさそうに小走りに駆け寄って来た。

「…ごめん…。ぼーっとしてた…」
「いや、俺も同じようなものだから…」

そう言うと、冬樹は微笑んで見せた。
その儚げな表情を見た雅耶は、何とも言えない切なさが込み上げてきた。
気が付いてしまえば、もう…その表情は女の子のそれにしか見えなかった。

(何で、今の今まで気が付かなかったんだろうな…)

でも、お前が夏樹である事実を隠したいと言うのなら。
俺は、いつまでだって気付かないふりを決め込んでやる。


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