ツインクロス
「そういえば、直純先生からお見舞いを預かって来たんだ」
「…お見舞い?」
首を傾げている冬樹の前に、預かって来た包みを差し出した。
「サンドウィッチだって。俺の分まで入れてくれたらしくて…。一緒に食べてしっかり冬樹にも食わせてやってくれってさ。…食欲あるか?」
目の前に広げられた包みの中には、お店でも出している美味しそうなサンドウィッチが沢山詰められていた。
「…こんなに…」
「ホント…愛されてるよなー」
思わず口から出た俺の呟きに、冬樹が目を丸くした。
「なに?…それ?」
「あ…いや。何ていうか…お前、大事にされてるなーって思ってさっ」
うっかり出てしまったぼやきに思わず動揺を隠せず、雅耶は一人あたふたした。

これは、ただのヤキモチだ。
見苦しいこと、この上ない。

だが、そんな雅耶の胸中を冬樹自身が知る由もなく。
冬樹は暫く不思議そうに雅耶を眺めていたが、視線をテーブルの上のサンドウィッチへと戻すと「本当、ありがたいよな…」と、しみじみ呟いた。
「…食べられそうか?」
「ああ。折角だし…頂くよ」

そうして、二人で遅めの昼食を取ることにした。


食事を終えて少しまったりした後、一応予定していた宿題に取り掛かろうとテーブルにノートを広げた。
「…お前、大丈夫か?無理しないで調子悪かったら休めよな」
冬樹はやはり本調子ではないのか、いつもより食も細かった。
本人は元気を装っているつもりなのだろうが、顔色や表情から調子が悪いのは一目瞭然だった。

「平気だよ。大したことじゃないんだ。原因も…分かってる…」
シャープペンシルをノートに走らせながら冬樹が言った。
「…原因?夏バテか何かか?…それとも風邪?」
「………」
冬樹は無言になると手を止めた。
ノート上に視線を置きながらも、何処か思い詰めたような…そんな表情を浮かべている。

「…冬樹?」

雅耶は心配になって、俯き加減の冬樹の顔を横から覗き込む様に声を掛けた。
すると、冬樹が顔を上げずにゆっくりと口を開いた。
「毎年…さ。この時期はいつも調子を崩しやすいんだ…」
「…この時期…?」

「ああ。それももう、八年越しになる…」

その言葉にやっと意味を理解して。
雅耶は、次の言葉が出て来なかった。

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